本研究全体の目的は、名詞句の等位接続構造に注目することにより、冠詞言語である仏語と無冠詞言語である日本語の体系的な違いを明らかにすることである。コロナ禍のため研究期間を2年間延長した間、固有名詞の等位接続を扱うことにより、両言語は典型的な例では確かに大きな違いを示すが、周辺的な例では当初予見していなかった類似点があることが明らかになった。最終年度に発表した論文では、仏語の定冠詞と日本語のタチが、等位接続された指示用法の固有名詞や代名詞全体にかかる場合の検討を通じ、そうした類似点について以下のように論じた。 典型的には仏語の冠詞は同一の名詞によってメンバーの等質性が保証される場合にしか用いることができず、例えばles etudiants et professeurs'the students and teachers)といった表現の容認度は低い。しかしles freres et soeurs‘the brothers and sisters'のように等位接続名詞がイデイオムである場合、冠詞が名詞句全体にかかることができる。こうした冠詞の使用制限を利用し、むしろメンバー間の結びつきの強さ・行為における一体性を強調するために冠詞が用いられることがある(例 Les Mignon et Charrier s’etaient approches‘The Mignon and Charrier had approached’)。類似の用法は日本語のタチにも見られ、固有名詞や代名詞で表されるメンバーの結び付きの強さ・一体性を強調するために、一見不必要と思われるタチが用いられることがある (例「君と僕タチ二人は世界最高のフィアンセ」)。 さらにこうした剰余的な用法は、定冠詞やタチが近い名詞だけと結びつく通常の用法から統語的再分析により、「伴連れ代名詞構文」に類似したやり方で生じると論じた。
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