研究課題/領域番号 |
18K00542
|
研究機関 | 山口県立大学 |
研究代表者 |
西田 光一 山口県立大学, 国際文化学部, 教授 (80326454)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 定型表現 / ことわざ / 不定名詞句 / 総称 / 照応 / 疑似体験 / 規範的内容 / 発話の産出フォーマット |
研究実績の概要 |
2021年度は英語の定型表現の中で、節の形式のことわざに着目し、ことわざと代名詞の共通点の解明に注力した。成果を日本英語学会の国際春季フォーラムで招待枠で口頭発表し、その一部を英語論文として発表した。ことわざは、代名詞の中でも、heやsheなどの照応的代名詞よりはoneなどの総称的代名詞に近いことが分かった。ことわざとoneは形式は違うが、1. 分布、2. 機能、3. 推論の3点で共通している。 1. 分布では、sayなどの動詞の補文に生じ、補文内から主節の主語に照応する用法がことわざとoneの両方に認められる。この形式の照応はheなどの代名詞にはできるが、定名詞句にはできず、代名詞的な分布と言って良い。 2. 機能では、ことわざとoneは、ともに総称的であり、代表的な1例を表す。総称的oneの機能は同じく不定単数のa(n) Nの形式を備えた不定単数名詞句にも共有されており、この点からことわざはAN INSTANCE OFといった抽象的な不定単数名詞句を解釈上の慣習として伴うと考えられる。この解釈は、E. Goffmanの言う発話の産出フォーマットから与えられる。この点は上記の口頭発表と英語論文で詳論した。 3. 推論に関しては、ことわざとoneは、ともに同一指示よりは疑似体験(simulation)によって他の指示表現との照応的解釈が得られる点で共通する。疑似体験に基づく照応的解釈は、規範的(normal)な内容の文脈で成立することが最も容易である。規範的な内容の表現は誰もが疑似体験でき、自分のこととして受け容れられるからである。そのため、oneが主語の総称文やThe early bird catches the worm.のような規範的な内容のことわざは、疑似体験に基づく推論により、1人称的に解釈され、そこから他の指示表現との照応的解釈が生み出される過程が明らかになってきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍で出張が制限され、資料収集が予定通りに進んでいない。代替措置として、書籍や論文の収集による文献調査を重点的に進めることにした。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度はコロナの感染状況が落ち着くと見込まれ、積極的に学会や研究会に参加し、最新の成果と資料を入手する。ことわざは、談話の内容に応じて選択される照応表現とは何かという本研究の最重要課題に明確な答を与えるため、集中的に研究する。 英語では、heなどの3人称代名詞を標準的で無標の照応表現とすれば、本研究が着目する総称のone、不定単数名詞句、特定化の照応表現(specifying anaphors)としての定名詞句、ことわざ等は非標準的であり、有標の照応表現と言える。これらは、本来は照応に特化しておらず、一定の語用論的条件を満たした文脈で照応的用法に転用される表現である。 談話の内容に応じた照応表現では、最初、特定化の照応表現を第一に考えていた。しかし、特定化の照応表現は個別の文脈、個々の指示対象に応じて新たに作られるため、創造的だが選択的ではないため、分布、機能、推論のいずれでもheなどの代名詞とは大きく違う。ことわざは、定型的かつ選択的という点が本研究の問題解明に直結する。また、総称のone、不定単数名詞句、特定化の照応表現には先行研究が蓄積されているが、ことわざの照応的用法には先行研究が少なく、不明な点が多い。今年度は、A. Kehlerの3人称代名詞と談話の結束性に関する一連の研究を参考に、照応的なことわざの特徴を解明する。 談話の内容では、総称のoneとことわざは規範的で他者も疑似体験しやすい内容の文脈で使われる。これが不定単数名詞句の照応的用法にも妥当するか、テキストの読解を通じて明らかにする。一方、特定化の照応表現は特定の個人、しかも有名人の紹介に特徴的に使われ、疑似体験は関与しない。昨年度、学会誌に発表した論文で扱ったように、文形式への照応としての怠惰代名詞、タイトルと本文の関係、定型表現としての歌など、本研究の成果が応用できる事例を視野に入れて本研究全体をまとめる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度、2021年度とコロナのため、国内海外ともに出張ができないことが多くあり、当初の計画通りに研究が進んでいないため。
|