最終年度は英語の定名詞句の用法を中心に談話の内容と照応表現の対応関係を研究した。定名詞句の用法は、代名詞に類したものと、そうではないものに区別される。代名詞は格変化を通じ文法的役割を先行詞に与える。the foolなどの評価的な定名詞句は、「愚かな行為の行為者」などの評価とともに間接的に先行詞に主語の役割を与えるため、代名詞的、つまり照応的に使える文脈が広くある。しかし、the 48-year old actorのように属性や職業を表す定名詞句は、何の行為も含意せず、先行詞に文法的役割を与えないため、照応的用法が主語位置などに限られる。つまり、評価的な定名詞句は先行詞と結びつく機能を備えているが、属性や職業を表す定名詞句は主題として先行文脈に続いているだけという点で違う。 ことわざの中の名詞句や総称的な不定単数名詞句も、先行詞に文法的役割を与えるために談話照応に使われると考えられる。統語論で言う束縛条件Bは、代名詞的な照応には少なくとも2つの節を必要とすると定めるが、これは語類の違いを超え、ある名詞表現が別の名詞表現に文法的役割を与える際の条件であり、束縛条件Bに語用論的根拠が与えられるという理論的含意が導かれる。代名詞と定名詞句の照応的用法に焦点をあて、語用論と文法の分業を解説した概説的な章(共著の一部)を書きあげ、2023年度中に刊行される予定である。 また、談話のタイトルと内容の関係を明らかにする方法を探求し、第5回アメリカ語用論学会で口頭発表した。ことわざをタイトルとする英文記事の調査から、規範を表すことわざのタイトルは筆者または記事の登場人物の主張を表すのに対し、逸脱を表すことわざのタイトルは筆者の登場人物への批判を表すという傾向を把握した。 ともに談話の内容に応じて解釈が変わる事例として文接続に照応表現の研究成果を応用し、文接続の研究書に関する書評を学会誌に発表した。
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