研究実績の概要 |
本研究は我々が音声を聞いて話し手の印象を形成する仕組みを体系的に解明することを目的として行われた。具体的には、我々が音声を聞いて話し手の印象を形成する仕組みには、言語文化の違いを超えた普遍性と個別言語文化による特殊性があると仮定し、社会認知や動物の発声における知見を基に、音声に基づく印象形成の3次元モデル(warmth, competence, activity)を提唱し、そのモデルを複数言語における聴取実験を行うことによって検証し、モデルの普遍性と個別言語文化の特殊性をあぶりだすのが当初の目標だった。 最終年度であった2023年度は、前年度に論文にまとめたプロジェクトである、日常発話音声ではほとんど出てこないが演劇や吹替でやくざやチンピラなどの悪役の登場人物の役割語として用いられる顫動音(いわゆる巻舌)について、この音の音象徴的特徴によって、悪役と結びつくようになったのではないかという仮説を含め、国際会議で成果を発表し、多言語・文化からの洞察に富むコメントをいただく機会があった。 また、人物像の声のステレオタイプが広まるには、聞き手の印象が再生産される必要がある。それは一般的には創作物における演技の視聴を通じて行われていると想定されるものの、プロでない一般人が日常生活で、人物像を思い描いて、ある程度一貫した音声を生成して聞き手に伝え、再生産していることも想定される。しかしながら、既存の研究ではまとまった数の一般人が生成した音声を対象とした研究は見られない。そこで、本研究では新たにデンマーク・オーフス大学の音声研究チームと共同し、日本語、デンマーク語、アメリカ英語を母語とする話者各30名程度が10数の人物像を思い描いて発話した音声を収録した。今後は収録した音声に対し統一的に分析を行う予定である。
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