研究課題/領域番号 |
18K00550
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
黒田 享 武蔵大学, 人文学部, 教授 (00292491)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 語形成 / ドイツ語 / 動詞 / 生産性 / 古高ドイツ語 |
研究実績の概要 |
令和2年度はまず、前年度の研究で重要性が明らかになった派生形態素の「生産性」の問題を検討するため、H. Baayenを端とする「生産性」についての計量言語学的議論の変遷を調査した。その結果、従来のドイツ語の動詞派生形態素の研究では様々な派生動詞の通時的な成立背景が重視されてはいたが、新しい語の共時的な形成の可能性(「生産性」があるか)は十分に注目されないという問題があったことが判明した。近年、ドイツ語も含め、「生産性」に着目した語形成に関する研究も増えつつあるが、古高ドイツ語以前の状態についての史料がない上、古高ドイツ語の語彙も充分に解明されていないという事情もあり、ドイツ語の派生形態素の「生産性」についての説得力ある研究は初期新高ドイツ語期以降の時代に対象を限定する必要があることがわかった(それ以前の段階の状況を参考にすることには意義があるだろう)。 こうした検討を踏まえて、マンハイムドイツ語研究所(Institut fuer Deutsche Sprache Mannheim)がインターネット上で提供する現代ドイツ語コーパスを用いて具体物を表す名詞から派生された動詞の用例を採集し、データベース化した。それを古高ドイツ語派生動詞用例データベースと照らし合わせ、現代ドイツ語の動詞派生形態素が持つ「生産性」を中心に、その機能領域ごとの分布と変遷を調査した。 なお、古高ドイツ語の動詞派生形態素の機能の地域的差異や出典文書の言語文化的背景との関連も調査する見通しを立てていたが、そもそも現在まで残されている文書の量が限定される古高ドイツ語からは研究に充分なデータが得られないことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究で得られた派生動詞の形成に関する知見を踏まえた学術論文を1点発表した。また、調査対象に含まれる古高ドイツ語文書成立の文化的背景についての研究成果を1本の学術論文と1本の共著書(一部執筆分担)により発表した。 国内外での出張による調査や研究成果発表も計画していたが、実施できなかった。新型コロナウイルス感染症のため移動が大幅に制限されたこと、また、訪問先として予定していた機関での受け入れ環境が整わなかったことがその理由である。インターネットを利用した通信により、ある程度の情報収集や研究成果に関する意見交換は行なったが、本務地外での調査や関連分野の研究者との対面による意見交換よりも得られる情報が少なく、計画通りの研究が達成できなかった。感染症対策の状況は今後も逐次把握し、可能な範囲で各地での資料調査や研究成果についての意見交換を実現するよう努める。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究計画の最終年度であるので、研究成果全体を俯瞰し、これまでに得られた知見の語形成研究における位置付けを改めて検討するとともに、研究成果の発表とそれについての意見交換に重点を置く。 今年度の関連研究者との意見交換の過程で、本研究で調査対象となる動詞派生形態素のいくつかが言語類型論における「移動事象(Motion event)」の研究でも着目されていることについての指摘があった。言語類型論的アプローチによる研究成果の考慮は当初から研究計画に含まれているので、次年度の研究において「移動事象」との関連でのドイツ語の動詞形成の位置付けも検討する。 「生産性」の観点に基づいて動詞を派生する形態素の機能的変遷を捉える試みは継続するが、動詞から名詞を派生する形態素との比較を行うことも予定している。その際、近年の研究で興味深い歴史的変遷を経てきたことが知られるようになった接尾辞-ungに特に注目する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症のため、出張による調査・研究成果発表が実施できなかった。また、学生との直接の接触を減らすため、研究資料整理などのための学生アルバイトの雇用も行わなかった。こうしたことから旅費および人件費・謝金の支出ができなかった。次年度請求額と合わせ、今後の旅費に充てる計画である。それが困難な場合は資料購入費の一部として使用する。なお、次年度も接触制限が望ましい状況が続く限り学生アルバイト雇用は見合わせる予定である。
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