今年度の研究業績は主に著書の出版、及び敬語を使ったアイロニーの共著論文2本を専門雑誌に投稿したことである。 2019年の3月にイギリスのRoutledge出版社と契約を交わし、2020年の12月末までに全ての原稿を出版社に送る約束であったが、2020年の3月に原稿がそろい、改めて審査にかけられ、出版が決定したのが4月。それから9月末まで校正を2回繰り返し10月30日に、印刷されたものが出版された。著書の題名は Japanese Politeness: An Enquiry。これは日本語のポライトネスの様々な現象を分析したものであるが、役割理論を適用して従来のポライトネスの扱いとは異なった視点で日本語のポライトネスの根本を探求したものである。その結果、従来の研究と比較して異なる分析結果が得られ、欧米の言語のポライトネスとの対照的な要素も抽出することができた。また、日本語における敬語の社会的イデオロギーの効力、敬語の起源などにも言及し、さらに敬語世界におけるストラテジーについても章を設け、幅広く包括的な日本語のポライトネスを考察する一冊となった。 敬語を使ったアイロニーは、海外研究協力者と2年間に渡って考察をしてきたが、従来のアイロニーの定義に当てはまらない敬語アイロニーの現象を発見したことで、新しいアイロニーの定義を提案する点まで発展した。従来のアイロニーの定義は「発話の内容」と「話者の意図すること」とに矛盾やギャップがあるというのが原則であるが、敬語を使ったアイロニー現象の中には、そのような「命題の食い違い」がなくともアイロニーを生じる点を主張した。共著で2本の論文を仕上げ、専門雑誌に投稿し、ひとつはacceptされ出版待ちで、もう一つは審査待ちである。紀要論文も3月に出版された。これは敬語のイデオロギーを利用して目下が目上に応酬する例を分析したものである。
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