本研究では、脳損傷例が呈する言語処理方略について、その出現に関与する要因を明らかにし、将来的に言語聴覚療法の臨床に還元することを目指す。本研究では、脳損傷例が呈する言語処理方略のうち、申請者らが症例報告を行ってきたテーマについて検討を行っている。一連の研究は、言語聴覚療法に従事する福岡県及び熊本県の病院・施設に在籍する言語聴覚士と共同で進めている。 令和2年度で終了予定であったものを新型コロナウイルス感染拡大に伴い令和3年度まで延長したわけであるが、最終年度もそれまでと同様に新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、各病院・施設におけるデータ収集の大半は実施できない状況であった。そこで、主に令和元年度までに行った検討結果やオンラインでの検討を通して、仮名の書字障害を呈した症例の誤りの傾向や訓練の検討などについて研究を進め、音声言語医学誌に成果を公にすることができた。この研究では、慢性期失語症例に対し、仮名1文字の書取を目的に単音節語からなる漢字1文字をキーワード、漢字1文字を初頭に含む複合語等をヒントとして用いた訓練について検討が行われている。訓練の結果、平仮名44文字中、書取可能な文字数が9文字から31文字に増加した。また、仮名1文字の書取の成否に影響を及ぼす文字属性を検討した結果、キーワードとして用いた漢字の画数が有意な要因として抽出され、一部ではあるが訓練効果に影響を及ぼす要因についての検討を行うことができた。まだ検討していない項目もあるため、今後引き続き検討を続けていきたい。また、令和2年度及び令和3年度に収集したデータについても順次検討を進めているところである。
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