1.意味機能の点で曖昧な名詞句(世界の中の対象を指示する機能を持つとも、そのような機能を持たないとも、どちらとも解釈できる名詞句)に着目し、(i)その曖昧性が必ずしも述語(の意味、あるいは選択制限)によっては説明できないこと、(ii) その曖昧性を説明するためには、<名詞句それ自体の意味>とは別に、<名詞句が文中で果たす意味機能>という観点が不可欠であること、などの知見を得た。この内容を内外の研究会等で発表し、参加者と議論を深めた。 2.(<名詞句の意味機能>という観点を持たない)一般言語理論(ミニマリストプログラム、認知言語学、など)を取り上げ、(i) そこにはどのような難点が生じるか、(ii) <意味機能>という観点を当該理論に取り込むにはどうすればよいか、などを検討した。その検討の中で、具体的な言語構文(いわゆる主題文、受身文、使役文、など)に登場する名詞句の意味解釈に着目し、それらの構文の意味を論じるにあたっても、<名詞句の意味機能>が一定の役割を果たすことを明らかにした。この内容について、言語理論を専門とする研究者らとの議論の場を設け、さらに考察を進めた。 3.言語学(および哲学)で用いられる基本概念(指示reference、同一指示的coreferential、照応anaphora、束縛binding、主題topic、など)について、用語法上の整理を行ない、それらをどのように規定するのが適切・妥当かの検討を行なった。 4.「非飽和名詞」と、先行研究において提案されている類似概念(「中核名詞句」「関数名詞句」)との、概念上の異同を検討した。 5.《飽和性》と《文中での意味機能》との相互作用が見られる構文として、「地図をたよりに人をたずねる」タイプの構文をとりあげ、同構文の特徴・制約を検討した。
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