本研究の課題は、自然談話、特に相互作用のある自然談話の構造理解のために、音声・変異動態に基づいた談話標識の機能の解明を行うものである。談話標識は実質的意味が希薄なため、情報としての伝達内容にさほど影響を及ぼさないと見なされてきたが、自発談話内での言語と認知構造の関係、発話メカニズムの解明のためには必須の語類である。 これまで接続詞、感動詞を扱ってきたが、2023年度は相槌とポライトネス、そして一見、冗長に見える言語表現をもとにバリエーションと言語変化について扱った。言語変化はどこから生じるのか。例えば近年「~というかたちになります」という表現を耳にする。「かたち」表現は、語用論的に謝罪や相手への負担度に関連する文脈で許容され、反対に、より余剰にみえる文脈で低く評価されていた。語用論的に謝罪や相手への負担度に関連する文脈では「かたち」の名詞性がもつ、前文脈を被修飾名詞「かたち」をはさんで提示することが直接性の回避につながっている。実際の使用意識をある時点で輪切りにしてみると、許容する話者から許容しない話者までが存在する。その中で、例文の特徴と話者の評価を対応づけることにより、より詳細な観察が可能となる。対人関係と配慮を考えながら、新しい形式を生み出すことの要因を考察した。
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