研究課題/領域番号 |
18K00567
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大堀 壽夫 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 教授 (20176994)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 認知言語学 / 意味論 / フレーム / 構文 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年からの研究の継続として、構文・語彙両面にわたって調査及び考察を行った。統計手法についても研究をすすめ、KH Coderなど分析ツールの導入を行った。本年は国際認知言語学会が西宮にて開催された。そこでは小原京子(慶應大学)と共同で"Cross-theoretical perspectives on frame-based lexical and constructional analyses: bridging qualitative and quantitative studies"というテーマ・セッションを開催した。コメンテーターに構文研究の新進の第一人者であるMartin Hilpert(Universite de Neuchatel)を招き、小原が日本での拠点をになうFrameNet関連のトピックを中心として、討論を深める機会をもった。フレーム意味論に基づいたコーパスデータのタグ付けについて、大いに得るところがあった。こうした活動を背景として、本年度は語彙分析のための語彙選定とデータのコントロールを検討した。また、考察を進める途上で、これまでの意味分析で行われてきた多義性についての議論を再検討し、より定量的、連続的な観点から多義性を捉え直すべきであるという考えに至った。加えて、より一般的な観点から、(i) 認知言語学の理論的・哲学的基盤について考察、(ii) コロケーションの統計的分析についての検討、の二つの活動を行った。また、上記テーマ・セッション等の成果をふまえ、セッション参加者を含めたメンバーで、認知言語学をより経験科学として妥当な形で「組み替え」たテキスト出版の計画を進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年からの継続で、コーパスデータへのタグ付与の方法論について考察を行った。フレーム意味論についての最新の知見を取り入れ、認知言語学の基礎概念について体系化の方法を考察した。語彙分析において課題となる多義性の扱いについては、上位フレームを共有する二つの語義の間で認め、分析の際にはこの基準で用例のコントロールを行うことを考えた。同じくプロトタイプについても、(サブ)フレームにおける頻度の高さによって再定義すると同時に、話者間の異なりも統計的なpopulation modelで処理可能であるという観点に達した。個別の分析については、(i) 構文分析のケーススタディーとしていわゆるprepositional passiveの用例を他動性モデルの妥当性の検討を含めた分析、(ii) 語彙分析のケーススタディーとしてfair, not fair, unfairの談話文脈を含めた文化シナリオの分析、を進めている。なお、COVID-19パンデミックの影響により、2月に予定したKH Coderセミナー出席が取りやめとなった。セミナー参加を通じた研究協力者の養成を計画していたが、この点に限っては当初計画からの遅れた生じた。
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今後の研究の推進方策 |
当初参加を計画していた学会がCOVID-19の影響で中止あるいは縮小開催となったが、コーパスからのデータ抽出とタグ付与・加工においては遅れは生じていない。国内学会、国際学会、および学術誌への投稿を本年度は進め、成果の公開に向けて尽力したい。また、本研究はデータ収集、処理において研究協力者の存在が重要になるため、次年度は研究体制を拡充して、研究の枠組みや方法論が将来に継承されるような準備も行いたいと考えている。加えて、本研究の背景をなす問題設定としての、認知言語学の理論の整備という課題についても、広く最新の研究を吸収し、考察を進めていきたい。なお、当初は海外からの研究者の招聘による研究交流を想定していたが、この点については計画を部分的に変更し、オンラインでのシンポジウムやプレプリントの公開といった方法で、意見の交換と拡散をする方法を検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に開催された国際認知言語学会において、テーマ・セッションへの招待講師として、ポズナン大学(ポーランド)のカロリナ・クラヴジアック氏を予定し、承諾を得ていたが、直前になって家庭の事情で出席が不可能となった。そのため、これにあてる予定であった予算をいったん留保することとした。
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