本研究はより経験的な妥当性をもった認知言語学研究の方向性の検討と実践を目的としている。理論的基盤としてフレーム意味論および構文理論を軸に研究を行った。方法面では、(i) コーパスデータにフレーム意味論にもとづいたタグ情報を付与して分析することで、語がもつ意味特徴をより体系的に示す、(ii) 語彙情報と構文情報の表示について、統合的な扱いの可能性を検討する、特に文脈操作語(contextual operators)について考察する、の二つを柱として進めてきた。 (i)については、Wierzbickaらによる文化語彙研究をふまえ、英語のfairと日本語の「公平」という語を選択し、コーパスデータから抽出した文例に対してタグ付与を行い、それをもとに多変量解析によって意味属性をマッピングすることで、文化語彙のモデル化を試みた。成果は慶應義塾大学出版会より公開予定である。 (ii)については、2019年国際認知言語学会で小原京子(慶應義塾大学)と"Cross-theoretical perspectives on frame-based lexical and constructional analyses: bridging qualitative and quantitative studies"というテーマ・セッションを共同主催し、構文彙(constructicon)の設計について討議した。また、文脈操作語について、insteadを例として、最近の構文化研究における周辺部の変化と結びつけてCOHAに基づいた調査を行っている。 加えて、これらの作業を通じて、認知言語学全般の課題検討の成果として、新しいテキストの出版を進めている。これまでの主要概念の解説だけでなく、次世代に向けての新たな課題の設定も組み込んだものとなることを意識しつつ作業を進めた。
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