研究実績の概要 |
今年度は実証的研究と理論的研究を同時進行した。 宮本と大滝は, 標準語話者対象の実験(前年度作成したIbex Farmを使用)において使用する刺激文の種類 (less than n, exactly n等) と呈示方法について検討した。そして, 予備実験の結果を踏まえ, 本実験に向けて刺激文ならびに呈示方法について修正を加えた後, 標準語における本実験を行った。現在,Tamura, Miyamoto and Sauerland (2019:TMS)の枠組みのもと, 刺激文の種類, スクランブリングの有無等の「か」ならびに「も」の解釈に与える影響を中心に分析中であるが, 基本語順における解釈は概ねTMSの実験結果と一致するものであった。同時に, 大滝は本実験プログラムの富山方言における利用の可能性について引き続き検討した。 前田は, 東京方言と福岡方言のWH句と焦点要素の介在効果に関して音韻分析を行った。また, 東京方言と長崎方言の敬語形態素の生起制限を観察し, 動詞句のカートグラフィ構造を研究した。さらに, 数量詞の作用域研究に関して, 日本語の項削除が数量詞の作用域の変化を引き起こすこと, その意味変化はFox (2000)のScope Economyに従うことを明らかにした。 西岡は, 熊本方言の「が」と「の」の使用に基づき主語の統語的位置を特定し, 否定と数量詞の解釈の可能性から否定の作用域について詳細に検討した。また, 否定を要する「WHも」, 「XPしか」, 「ろくな N」は従来, 否定極性表現として一律に扱われることが多かったが, 「ろくな N」は否定極性表現だが,「WHも」と「XPしか」は否定一致要素であり, この異なる性質は, 項と付加詞の違い, ならびに焦点要素の統語的振舞いと否定の作用域から導出できることを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け, 本実験については, ここまでオンラインでの実施が強いられている。本研究課題においては, 高齢者からの対面によるデータ収集が必須のため, データ収集に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の収束時期によるが, オンラインのみならず対面による方言データの収集を開始し, ここまでの理論的研究成果を踏まえ, データ分析まで行う予定である。また, 理論的な研究成果については続けて公表していく。
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