研究課題/領域番号 |
18K00574
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮本 陽一 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (50301271)
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研究分担者 |
前田 雅子 西南学院大学, 外国語学部, 准教授 (00708571)
大滝 宏一 中京大学, 国際学部, 准教授 (50616042)
西岡 宣明 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (80198431)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肥筑方言 / 長崎方言 / 生成文法 / N'削除 / ラベリング / インターフェイス / 統語 / 音韻 |
研究実績の概要 |
宮本と大滝は、標準語話者を対象に行ったパイロット実験の結果をもとに、九州方言話者を対象に行うオンライン実験のデザインについて検討した。実験で使用する刺激文の絞り込みを行うとともに、コロナ禍、遠隔システムを利用したオンライン実験を作成した。 対面実験が行えなかったため、宮本はオランダ語の諸方言、肥筑方言(特に熊本方言)等のデータをもとにN'削除の統語メカニズムについてミニマリストプログラムの枠組みにおいて統語分析を行い、オランダ語の諸方言と九州方言のN'削除に関する振る舞いの違いが名詞句内における素性構成の差異から生じることを明らかにした。 西岡は、本研究課題の肥筑方言(特に熊本方言)基礎データの再検討を行い、主語が「の」で表される場合、顕在的な目的語が後続すると容認性が低い理由を考察した。これは、目的語のかき混ぜによって容認性が高くなるが、非顕在的な移動ではこの問題は解消されず、目的語の量化作用を検討する際に考慮すべき点であることを明らかにし、vP指定部に位置する「の」主語に目的語が後続する場合に「他動性制約」が関与していると主張し、ラベリングの観点から「の」主語の格付与のメカニズムを考察した。 前田は、日英語におけるcoordinated wh-questionの統語特性について、同構文がPF削除により派生されると主張した。また、統語ー音韻インターフェース条件について、日本語における標準語と長崎方言の敬語形態素の生起環境を、動詞句の階層構造との関連から研究した。さらに、敬語形態素と受け身形態素について、標準語ではそれらが音韻的に同一であるため共起制限がかかるのに対し、長崎方言ではそれらが異なる音韻を持つため共起できることを明らかにした。また、標準語における共起制限も、削除により受け身形態素が音韻的に顕在化しない場合には緩和されることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍、対面実験が全く行えなかったためである。本課題の場合、肥筑方言、長崎方言等を日常用いる高齢者のほうが被験者に適しているが、高齢者の場合、遠隔システムを用いた実験実施が、コンピュータ操作が容易に行えないという理由から難しいためである。今年度は、できるだけ容易に参加できるオンライン実験を行い、データ収集を試みる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、コロナ禍、作成した遠隔システムを用いたオンライン実験を利用してデータ収集を行う。昨年度、すでに収集済みの標準語のデータとの比較を通して、選言接続詞の特徴、ならびに日本語の主語の振る舞いについて解明していく予定である。 これと並行して、理論的な研究を続行し、N'削除の分析から得られる素性構成に係る統語的なメカニズムを、また、九州方言における敬語表現の振る舞いを統語-音韻インターフェイスの観点から検討し、VPの階層構造を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍、対面実験が実施できなかったため。今年度はオンライン実験に切り替えて、高齢者でも容易に参加できるオンライン実験を行い、データ収集を試みる。さらに、このデータについてミニマリストプログラムの枠組みにおいて分析を行う。また、並行して、ここまでに構築された理論の精密化を図る。 この目的のため、予算は実験ならびに分析に使用する実験機器(コンピュータを含む)ならびに謝金に使用する予定である。また、成果発表のための学会参加費ならびに旅費に使用する予定である。
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