令和元年度は、前年度検討した現象に加え、影山(2010)で指摘された「動作主複合」、および、いくつかのタイプの接辞の振る舞いについて検討を行い、和語単純動詞と漢語動詞・和語複合動詞を対照することで、後者が前者の拡張として捉えられることを示した。影山(2010)は、漢語動詞の特徴の一つとしてその動作主に当たる要素との複合が可能であること(動作主複合)を指摘し、これが通言語的に稀な現象であると述べている。これに対し本研究では、動作主複合が和語単純動詞について成り立たないのは事実であるが、<動詞連用形+動詞連用形>の形式をとる和語複合語については成立する現象であり、必ずしも漢語動詞に限られたものではないことを示した。このことは、前年度までの研究で示してきた漢語動詞が和語複合動詞と共通点を持つということをさらに確証するものである。また、「~中」や「~済」といった接辞は、一般に漢語に後接するとされるが、<動詞連用形+動詞連用形>にも後接可能である。これらの現象は、いずれも、和語複合動詞が和語単純動詞ではなく漢語動詞との共通性を示す現象であり、本研究の目的である漢語と和語の関係について重要な示唆を与えるものと言える この研究成果については、2020年2月6日~8日に開催された"19th International Morphology Meeting"(於ウィーン経済大学、オーストリア)における研究発表として公表された。
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