令和5年度は、主に日本語に焦点を当て、漢語動詞と和語複合語との共通点を実証的に示し、そこから記述的一般化を行うこと、さらに、そのような一般化がなぜ成り立つかを考察した。 日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)から、「~する」「~中」「~済み」に前接する要素を抽出し、それらの語種(和語、漢語、外来語)と形態的複雑性(一形態素、二形態素、三形態素)を分類した。その結果、用例数のうち、「~する」「~中」「~済み」に前接する要素は、いずれの場合も異なり語数で約90%が二形態素の漢語で、残り10%が二形態素の和語と一形態素の外来語から成ることがわかった。この分布は、Nishiyama 1999)が「~な」に前接する要素(「便利、大事、静か、健やか、リッチ、リアル」など)について行った一般化"NAs are loanwords or polymorphmeic"と一致している。しかし、Nishiyama (1999)は記述的一般化であり、借用語であるということと複形態素であるということがなぜ選言で結ばれているかについては述べられていない。 本研究では、借用と複合語形成が新しい概念に対する名づけであるという点で同等であり、このことが上記のような分布の基盤になっていると考えることで、この問題を解決できると主張した。 また、Harley (2008)において"Latinate verbs are bimorphemic"と述べられていることに着目するとともに、Latinate verbがverb-particle constructionに生起しないという指摘が、影山(1993)の語彙的複合動詞における漢語サ変動詞の不生起と平行的であることを示唆した。
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