研究課題/領域番号 |
18K00577
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
宮平 勝行 琉球大学, 国際地域創造学部, 教授 (10264467)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 言語横断 / 沖縄語 / 沖縄ディアスポラ |
研究実績の概要 |
2年目となる本年度は,引き続き関連文献を検索し通読した。言語横断やメトロリンガリズムに関する文献のだけでなく,本研究の理論的フレームワークに関連する言語の様式化(language stylization)やスピーチコード理論についてその有益性を検証した。その成果として一編の論文を沖縄外国文学会の学会誌に共著で発表した。 論文の執筆を通して,継承沖縄語話者による言語の様式化は,言語横断という事象と類似する点が多いことがわかった。本論文では演劇集団FECの舞台喜劇を取り上げ,役者が日本語,沖縄ことば,うちなーぐち,片言の英語をどのように使い分けているのかを分析した結果,継承沖縄語話者は日本,中国,米国といった沖縄を取り巻く超大国を一定の記号論的手法で指標していることを会話のトランスクリプトをもとに明らかにすることができた。役者が各場面で特定の様式化された言語変種を選択し時に横断することは,沖縄が置かれた政治的現状を逆説的に風刺する言語プレイを創作することに寄与していた。この点はロンドンにおける「様式化されたアジア言語」と英語間の言語横断が若者の新しい志向性を示す言語現象であることとよく似た現象である。 こうした執筆活動と並行して,昨年度ハワイの沖縄ディアスポラ共同体で収集したデータの整理と文字化を進めた。より精緻な分析に堪えうるように,定質的データ分析のためのソフトウエア(MAXQDAとELAN)によるデータ解析法を学んだ結果,データ処理の側面でも一定の進捗があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
5年の長期にわたる研究計画は総じて遅れ気味であると言わざるを得ない。昨年度行ったハワイでのフィールドワークに続けて本年度は国内の沖縄県人コミュニティにおいて臨地調査を行う予定であった。しかしながら,本年度前半は上記の論文の執筆に注力したこともあり,臨地調査が思うほど進まなかった。後半は年末に新型コロナウイルスが発生して以来,外出を自粛する緊急事態となり,当初の予定を断念せざるを得なくなった。令和2年2月に予定されていたシンガポールでの変異社会言語学の学会が中止になったほか,3月に予定していた大阪大正区での臨地調査も実現に至らなかった。こうした想定外の広域感染症の流行もあって本年度の進捗状況はあまりかんばしくはない。 しかしながら,研究の理論的基盤となる文献の調査は一定の進展があった。継承沖縄語や継承日本語話者の言語レパートリーに注目し,その言語リソースをどのように活用するのかをことばの様式化や談話のフレームの観点から捉えることが重要であることが分かってきた。 研究組織の面では上智大学のギボ・ルシーラ・エツコ准教授に研究分担者として本研究に令和2年度から参加してもらうことになった。ポルトガル語と日本語のバイリンガルであり,ブラジルにおける沖縄語,日本語,ポルトガル語の言語接触の研究で実績のあるギボ氏が本研究に参加することで,南米における継承語話者の言語横断研究の体制を整えることができた点でも研究の進捗があった。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの発生により海外渡航が著しく困難になったこともあり,しばらくは研究代表者が活動の拠点としている沖縄県と研究分担者の拠点である東京都で研究活動を進めていく方針である。昨年度の実施状況報告書でも述べたように,今後の調査ではフィールドワークの範囲を広げ,インターナショナル・スクールなどの多言語社会の学校教育の現場でデータ収集を試みる計画である。教師が用いる教授言語や生徒がグループ活動や雑談の中で用いることばに注目し,多言語使用が奨励される共同体における言語横断現象を詳細に記録する方針である。 また,今後は参与観察の場を自然会話だけでなく,掲示物のテクストや言語景観に広げて研究を推進したいと考えている。インターナショナル・スクールの掲示物には日本語と英語が併記されているものだけでなく,時には両言語が融合して用いられる掲示が見受けられる。多言語社会の言語景観にも複数の言語が同一掲示物の中で混在している場合がある。そのようなテクストを収集し言語横断による表現の創造性について考察したい。沖縄県と東京都のデータを比較することで言語横断の普遍的な側面と地域特性を明らかにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大により,予定していた国際学会への参加と国内の臨地調査を見送らざるを得なくなったことが次年度への予算の繰越しが発生した理由である。未使用の予算は次年度行う予定の国内外での臨地調査に充てる予定である。
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