研究課題/領域番号 |
18K00577
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
宮平 勝行 琉球大学, 国際地域創造学部, 教授 (10264467)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 沖縄ディアスポラ / メタ・コミュニケーション / 継承語 / 沖縄語 |
研究実績の概要 |
令和5年度は沖縄ディアスポラで人々が語り継ぐストーリーを収集した。これまでの調査で明らかになったように、沖縄ディアスポラでは継承沖縄語をメタ語彙として使用することで場を脈略化し、断片的な記憶から故郷に関するストーリーを創造し、それを共同体の中で共有し次の世代へと引き継いでいる。前年度に引き続きウェブキャスト番組やポッドキャスト番組を収集し、そうしたストーリーを抽出する作業に取り組んだ。歌や三線、琉球舞踊などの伝統芸能をめぐる語りの中にしばしば現れる継承沖縄語の語彙を臨地で収集した資料に照らしながらスピーチ・コード理論の枠組みで分析を行った。 大阪府大正区では沖縄県人会を中心に参与観察と聞き取り調査を実施した。沖縄の伝統芸能であるエイサーの練習会場を観察し、沖縄県人の子弟が親や祖父母の世代から聞いたことのあるストーリーについて聞き取りを行った。併せて、大正区の沖縄文化を紹介するウェブページの製作者や沖縄文庫の主宰者に聞き取り調査を行い、その語りの中に現れる継承沖縄語のメタコミュニケーション機能について考察した。 国内外の沖縄ディアスポラで収集したこうしたストーリーを比較対照することで、日常用いる大言語の中でメタ語彙として継承沖縄語がどのような機能を果たすのか更に明瞭になると思われる。ハワイ、ロサンゼルス、大阪といった超多様化した社会において、継承沖縄語を例にいかにして少数言語がその言語共同体を維持し継承していくのかを明らかにすることは重要である。本年度はこうした継承沖縄語を契機としたストーリーの収集と分析に注力したので具体的な成果に結びついていないが、次年度まで研究期間を延長した上で論文としてまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は沖縄ディアスポラにおいて人々の自然会話をもとに分析を進めていく予定であったが、コロナ禍にあって海外渡航が制限されたこともあり、YouTubeなどのウェブキャスト方式で発信される会話や語りを主要データとする研究へと移行した。その結果、計画していた4つの課題のうち、言語横断や自然会話の連鎖組織については分析が困難になった。そのため語りの形式の分析や発語行為に基づく話者のスタンスの分析に軸足を移すことになった。こうした変更を経てこれまでの研究から明らかになったことのひとつとして、継承沖縄語の地名や人名、格言や常套句、「ゆんたく」などのメタ語彙が越境的に共有されているという点を挙げることができる。日本語や英語といった大言語によるディスコースの中で継承沖縄語が果たすメタ・コミュニケーション機能が明確になったという点で一定の進捗があった。 しかしながら、これまでのデータ分析は日本語と英語圏の沖縄ディアスポラに限定されているため、当初予定していたスペイン語やポルトガル語圏の沖縄ディアスポラを含めた比較対照分析の面で研究が滞っている。当初からスペイン語とポルトガル語の分析を担当する予定であった研究協力者が早期退職し研究協力を辞退したことによるものだが、研究期間を再延長した次年度にかけては、日本語と英語圏でのデータを多様化し拡充することで欠如したデータを補う計画である。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間を再延長した次年度は、これまでの研究活動を総括する論文を発表したいと考えている。ハワイや大阪大正区での聞き取り調査や「第7回世界のウチナーンチュ大会」期間中のフィールドノート、継続して視聴し分析してきたウェブキャスト番組など、多様な情報源をもとに世界のウチナーンチュを結びつける原動力は何なのかについて論考を発表する予定である。 これまでの研究で沖縄語の語彙や表現が政治的な論争では話者のスタンスを示し、沖縄ディアスポラにおいてはメタ・コミュニケーションのレベルで言語アイデンティティの維持・継承に寄与していることが分かってきた。今後は継承沖縄語を含むディスコースに埋め込まれたスピーチ・コードに注目し、文化的に固有なコミュニケーション儀式、共有されている神話、それらに基づいて繰り広げられる社会ドラマなどを更に発見し記述することに努めたい。そうすることでコミュニケーション研究の視座から越境的な沖縄県人ネットワーク形成の原動力となるコミュニケーション行為について総括する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
沖縄ディアスポラにおける臨地調査が実施できなかったことや国内外での研究発表に繋がるほどの成果が残せなかったため、次年度へ予算を繰り越すことになった。次年度は研究活動を総括し論文にまとめる計画であるため、繰り越した予算は国内外での臨地調査及び学会発表の旅費などに充てる予定である。
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