研究課題/領域番号 |
18K00578
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
那須 紀夫 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (00347519)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 切り詰め効果 / 活用形 / 呼応関係 / 補文標識 |
研究実績の概要 |
切り詰め効果が演算子移動によってもたらされる言語と主要部移動によってもたらされる言語の区別をもたらす文法的要因を明らかにすることが目的であった。検証の対象とした仮説は、「演算子移動を含む句の移動を用いる言語が指定部ー主要部間の素性共有によって文頭要素を認可する一方で、主要部移動を用いる言語は長距離一致(あるいは束縛)関係に基づく認可を行う。」というものであった。検証の結果、同一言語においても演算子移動と主要部移動の両方が切り詰め効果に影響を与えることが判明したため、当初の仮説を大幅に修正する必要が生じた。 修正の過程で補文標識の実現パターンに見られる言語差が切り詰めの有無を反映しているとの着想を得て、その検証を進めた。分裂CPを構成する主要部に対応した有形の補文標識を持つ日本語のような言語では、CP の分裂はレキシコンの中で達成されている。個々のCP関連主要部が独立した語彙項目としてレキシコンに内蔵されているからである。一方、補文標識の分化が貧弱な英語のような言語では、CP関連部門の情報が1つの補文標識に集約・融合しており、CP 分裂は統語部門で起こる。この違いの帰結として考えられるのは、英語のような言語では CP 分裂に課される統語的な制約が働くのに対して、日本語のような言語はそのような制約を免れるということである。年度の後半にはこの帰結の妥当性を確かめる作業を行うとともに、それまでに得られた結果を論文にまとめる作業を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の研究課題は節の切り詰め効果に見られる言語差を特徴づける文法的要因を解明することであった。当初掲げていた仮説を修正する必要があることが判明したため、仮説の修正と代案の整理に必要な文献調査を行うことにした。新型コロナウイルス感染症に対応するためオンライン授業の作成という新たな業務が増加したことや、図書館はじめ研究機関へのアクセスが制限されたこともあり、調査には想定よりも多くの時間がかかった。年度中に代案となる仮説と今後の研究の見通しを立てるに至ったが、その検証は翌年度に持ち越さざるをえなくなった。
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今後の研究の推進方策 |
切り詰め効果に見られる言語差を生み出す文法的要因の特定を目指し、補文標識の分裂が起こる文法部門の違いが切り詰め効果に見られる言語差を生み出すという仮説を検証する。具体的には、英語のような言語では CP 分裂に対して統語的な制約が働くのに対して、日本語のような言語はそのような制約を免れるという予測の妥当性を確認することが今年度の作業の中心になる。問題となる統語的制約の候補としては、ラベル付けに関わる制約が考えられる。 融合型補文標識が統語部門で分裂する際には、Rizzi らが Criterion と呼んでいる関係、すなわち指定部ー主要部間の素性共有関係を伴う必要がある。言い換えると、融合型補文標識を構成する主要部のうち共有に使われる素性を持つもののみが単独の補文標識主要部として独立できる。近年、共有された素性を句のラベルとする提案がなされている(Chomsky 2013,2015, Rizzi 2016)。これを援用し、ラベル付けに貢献する素性を持つ補文標識のみが単独の主要部として独立できるという制約を提案する。 翻って、補文標識の分化がレキシコンにおいて起こっている言語はこの制約には従わない。つまり、補文標識主要部はラベル付けに貢献する素性を持っていてもよいし、持たなくてもよく、さらにはそのような素性を持っていてもラベル付けにそれを用いなくてもよいという可能性もある。日本語における左端要素とラベル付けのあり方を観察し、この予想の適否を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症によって出席を予定していた国際学会が中止あるいはオンライン開催となり、それにかかる海外渡航費の出費が生じなかった。そのために残金が発生した。また、当初購入を予定していた物品の購入を取りやめたことも残金発生の理由の一つである。2021年度には購入を見送った物品の購入を予定している。また、研究成果をまとめた論文を専門誌に投稿するにあたって英文校正を委託するので、その謝金が発生する予定である。
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