研究課題/領域番号 |
18K00583
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
滝浦 真人 放送大学, 教養学部, 教授 (90248998)
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研究分担者 |
椎名 美智 法政大学, 文学部, 教授 (20153405)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イン/ポライトネス / 表敬と品行 / 敬意漸減 / 日本語の近代 / 東アジアの語用論 |
研究実績の概要 |
「日本社会における人間関係秩序の変化が人々のポライトネス意識と言語使用をどう変えてきたか?」を探る研究目的に沿って、大きく2つの方向で研究を行った。 1つは、ここ150年ほどにおける敬語と授受表現の変化を、「聞き手意識」の観点から体系的に説明する試みである。敬語は21世紀に入って公式に5分類が採用されたが、その背景要因などは考察されてこなかった。代表者と分担者は、この分類のうちに、動作主や受容者など他者を指向するタイプの敬語と、そうした他者が少なくとも直接には想定されない自己呈示的な敬語の2類型があることに着目し、これらを各々、社会学者ゴフマンの「表敬」と「品行」の概念に対応させて考えることを提唱してきた。これによれば上述の変化は、従来型の“表敬の敬語”から、「丁重語/美化語」という“品行の敬語”へのシフトと解釈することができる。同様に、授受表現に生じている変化も、「くださる」「さしあげる」のような他者指向のタイプから自己呈示的な「いただく」への大規模なシフトであると解釈できる。以上の成果を、代表者は3本の論文(1本は分担者と共著)として提出し(印刷中)、分担者は共著論文のほか1冊の単著書として刊行した。 もう1つの方向としては、世界の中の日本語に対する眼差しとして、「日本語から見えるイン/ポライトネス」を描き出すことである。日本語は典型的な“敬語型言語”であり、体系としてある敬語類がつねに顕著であることから、人々の意識も形式に寄りがちな傾きを示す。世界の趨勢は、聞き手の解釈したイン/ポライトネスを会話の流れの中で捉える内容指向的な面を強めているが、そうした中で、形式を意識せずには話せない日本語の宿命を踏まえながら、内容と形式が織りなすイン/ポライトネスのコミュニケーションを描き出すことの必要性を説くことに注力した(代表者)。これの成果は、1編の論考と1つの招待講演で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究の成果としては上述のようにそれなりのものが得られて安堵しているところではあるが、予定していた研究活動については、出張を伴う学会発表・参加や研究打合せ等がコロナ禍でほとんど行えなかったため、計画通りの進捗が得られなかった。 具体的には、国際学会「AMPRA-5」が延期となったため、大会参加と研究打合せが行えなかったほか、研究成果の公開を兼ねた研究集会も開催できず、その他、国内外の学会参加と併せて予定していた研究打合せが軒並み行えなかった。 そうした経緯を踏まえ、「事業期間延長」を申請し、受理されたので、2021年度において、実行可能な活動を実施していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においては、前年度遂行できなかった計画を順次行いつつ、最終年度にふさわしい活動を展開していきたいと考えている。 研究成果の海外への発信という観点では、「東アジアの語用論」という枠組みで日本語的な敬語のコミュニケーションやイン/ポライトネスの議論を発表していく予定である(中国語用論学会[CPrA]での招待講演、および、3ヵ国の学会合同で計画中の出版物にて)。 研究実績の項で記した2つの柱と対応させて、これまでの研究成果をまとめ、また研究協力者やこれまで交流してきた研究者とも協同しながら、2編の論集刊行を計画している。1つは、「『させていただく』研究会」の活動を基に、授受表現に焦点を当てたものであり、もう1つは、日本語から見える「イン/ポライトネス」に焦点を当てたものである。いずれも、代表者と分担者が共編者となる形で計画が進行中で、早ければ今年度末、遅くとも来年度夏ごろまでに刊行したい。 海外出張などは依然として難しい状況が続いているが、可能であればオンラインでの研究集会なども計画できたらと考えている。 また、代表者は別科研の分担者も務めているが(「現代韓国語敬語における使用原則の変化に関する語用論的調査と考察」代表者:丁仁京、20K00561)、現代韓国語においても増大する「聞き手意識」を動因とする敬語の変化が生じていることがわかっており、そちらとも連携しながら、「東アジアの語用論」の一翼を担っていきたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」の項に記したとおり、コロナ禍によって、海外学会への参加を断念せざるを得なかったこと、また国内学会への参加や各地の研究者との研究打合せを予定していたのが大部分キャンセルせざるを得なかったこと、年度末に予定していた研究集会が延期となり、講師謝金等の支出もできなかったことによる。それらに相当する活動を、できる限り今年度に行う予定をしているが、今年度も依然コロナ禍の状況が改善しきれていない模様であり、悩ましく思っている。
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