本研究課題は,上位者に敬意を払うことが強く求められる朝鮮語において,下位者が上位者に当為表現(-ya hata/toyta :日本語の「~なければならない」に相当)を使用できることに着目し,なぜ行為の強制や制限を表す形式の使用が不快感を与えないのかという疑問から出発している。 敬語の存在や言語的な対人配慮を行う点で類似性を見せる朝鮮語と日本語であるが,拘束的モダリティ形式の使用は両言語で大きく異なることを明らかにした。同一製品に対して朝鮮語と日本語で書かれた説明文・案内文・告知文や日韓・韓日の翻訳小説など,ジャンルの異なる資料を用いることによって,多角的な考察が可能となった。 朝鮮語の拘束的モダリティ形式には類似形式がいくつか存在する。このような類似形式は,朝鮮語学習者がその使い分けについて疑問を持つ項目の一つである。各形式の違いを探るため,コーパス資料によって使用頻度を調査し,また,韓国語母語話者へのアンケート調査を実施することで考察を深めた。本研究課題により,類似性が強調される日朝両言語の違いを浮き彫りにすることができ,朝鮮語教育へも少なからず貢献できたと考える。そして,言語によってどのような言語的配慮が必要か(あるいは不要か)を論じる土台を築くことができたと判断している。
1年の研究期間延長を申請し,最終年度となった2021年度には,朝鮮語と日本語の対照研究に資するデータの収集に注力した。このデータを使用して,言語形式の使用と不快感をテーマとした次の研究に繋がる調査に着手している。
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