最終年度には調査を3回実施することができた。その調査は、琉球の3つの地域に大別できる。その一つは以前から集中して調査を行っていた沖縄本島の金武方言である。北琉球の典型的な3型アクセント体系として知られるこの方言の調査によって、コロナ禍以前にすでに調査していたアクセント型別の語彙集を大幅に拡充することができた。もう一つは宮古諸島で、以前に調査をしていた多良間島や宮古島の与那覇の調査を再開することができただけでなく、洲鎌、狩俣、来間等の集落を新規に調査しアクセント型の区別の保存状態を調べることができた。金武方言で調査した調査語を使用して宮古諸島を調査した結果、当初調査を予定していた宮古島内の上地方言と与那覇方言では、琉球祖語に存在していたと想定される3つの韻律型の間の型の合流がかなり進んでいることが明らかになった。これらの調査結果をもとに、今後は祖語の型の区別がより明瞭に残されている多良間島に焦点を絞ってアクセント型別語彙集の拡充を図る必要性がある、という認識をあらたにすることができた。さらにもう一地点は、八重山諸島の小浜島、黒島、西表島祖納方言である。これらの方言についても、琉球祖語に残されている3つの型の区別が比較的明瞭に残されていることが明らかになったが、近年、方言の話者人口が激減したため調査が困難になりつつある現状も認識するに至った。以上を総括すると、研究期間の最初の2年間は順調に調査を進めることができたものの、2020年度からの残りの3年間はコロナ禍の影響を受けて調査が中断し、研究を推し進めることが困難な時期があった。しかし全般的には、金武方言の集中的な調査によって系列別語彙の候補語のリストを大幅に拡充することができ、最終的に約2300語の名詞についてそのアクセント型を確認することができたことは、大きな収穫であると言える。そのデータは公開に向けて、現在準備中である。
|