研究課題/領域番号 |
18K00595
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
藏藤 健雄 立命館大学, 法学部, 教授 (60305175)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 量化構造 / 情報構造 / 量化副詞 / 主題 / アバウトネス / 動的意味論 |
研究実績の概要 |
2019年度は、2018年度同様いわゆる「ロバ文」を情報構造の点から考察した。特に、ロバ文後件に生起する「ハ」の機能について、これまで注目されてこなかった観点に焦点を当て研究を行なった。「ハ」は従来アバウトネスを導く主題マーカーとして分析されてきたが、本研究を通じてこのような扱いは必ずしも正しくないことが明らかとなった。 例えば、典型的なロバ文である(i)「若手芸人がヤクザ映画に出演すると、たいていそいつは(その映画の中で)すぐ殺される」は、(ii)「ほとんどのヤクザ映画に出演する若手芸人は(その映画の中で)すぐ殺される」という解釈を持ちうる。ここで、(i)の「そいつ」は特定の指示対象を持っておらず、量化子「たいてい」に束縛される変項として解釈されている。問題は、指示対象を持たない要素になぜ「ハ」が後続できるのかという点である。なぜなら、従来の分析では「ハ」の中心的機能はアバウトネスであり、それゆえ、指示対象を持たない量化表現やwh語に「ハ」は後続しないと説明されるからである。また、(i)全体の主題は、(ii)の言い換えから分かるように、「若手芸人」かつ「ヤクザ映画に出演する人」の集合であり、その要素の個体ではない。情報構造的には、条件文の前件が主題、後件が焦点を含む主張にあたり、後件内に主題が現れることはありえない。 そこで、まず、後件(=主節)の左端位置は前件の一部として解釈されると仮定した上で、「そいつ/2-は」は、その左端位置に生成され、x/2=d のように翻訳されるという提案をした。動的意味論を用いると、これらの仮定から「若手芸人」の存在量化子が消去され、「たいてい」による束縛が可能になり、さらに、量化副詞の指向性に対する「ハ」による影響が自動的に導出されることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度得られた結果は、2018年の成果も取り込んでおり、現段階では正しい方向に進んでいるように思われる。その意味では、概ね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
「今年度の実績」で示した結論は、「ハ」自体はアバウトネスを伴う主題機能を担っていないことを意味する。最終年度にあたる2020年度は、「ロバ文」だけでなく、通常の談話で用いられる「ハ」にも同様の分析が当てはまることを示す予定である。具体的には、「そいつ/2-は」の定義 x/n=d は動的意味論における Dekker (1991) の存在量化解除で仮定される操作の一部と同じであるが、これが、Vallduvi (1992) の LINK の概念に対応するのではないかという見込みを持っている。もしこのことを示すことができれば、論理的操作でしかない存在量化解除が情報構造理論的な裏付けをえることができ、理論的な貢献になると思われる。 さらに、アバウトネス自体は、「ハ」の表示とは独立に、ASSERTION演算子によって導入されると分析する。「ハ」のつく句は左端に生成するが、ASSERTION演算子も左端付近に生成するので、結果的に「ハ」がアバウトネスを担っているように見えるのであるという説を展開する予定である。 2020年度は最終年度であるので、以上をまとめて海外ジャーナルに投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本務校業務の責任者になったことにより、夏期および春期休暇の海外出張を2019年の早い時期にとりやめたため次年度使用額が生じた。 2020年6月の空目的語に関する国際学会(ポルトガル:ミーニョ大学)での研究発表が決まったため、未使用分の一部をそちらの出張旅費として使用する予定であったが、新型ウィルス拡大により学会が延期となった。今年度中に行われることになれば、予定通り使用する。早い時期に今年度開催が不可能であることがわかれば、今後ウェッブ会議が広く行われるであろうことに鑑み、PC関連機器の購入費にあてる。
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