研究課題/領域番号 |
18K00596
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
大西 博子 近畿大学, 経済学部, 教授 (60351574)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 入声 / 舒声化 / 南通方言 / 呉語 |
研究実績の概要 |
当該年度の研究目的は、①先行研究で得られた成果に対する補強と②俯瞰的な視点からの考察研究であった。今年度の研究実績の概要について、上記2点の目的に即して述べる。
①先行研究(大西2019)では、通州地区における2地点(金沙と二甲)の調査データを比較分析しながら、通州方言における入声舒声化の進行パターン(入声音節の長音化に始まり、舒声調値へ接近し、舒声との持続時間差を縮めながら、舒声調類への合流へ向かう)とその発生原理(調値法則と調類法則に基づく原理)を明らかにした。今年度では、新たに2地点(袁zaoと四甲)の調査データ(2018年度実施の方言調査で得られたデータ)に対して、音響音声学的分析を行い、先行研究で得られた結果に対し、論を補強することに努めた。その分析結果は、第11回進化言語学学会国際大会(2019年11月23-24日開催、上海華東師範大学)において、口頭で報告を行った。
②先行研究では、入声音節の持続時間や声調調値のピッチ曲線に基づく微視的な視点から、入声舒声化現象について分析を行ってきた。今年度では、通州方言が所属する呉語と呼ばれる方言群における入声舒声化について、俯瞰的な視点から、その実態に対して比較分析を行い、先行研究で得られた結果の普遍性を確かめることに努めた。同時に、呉語内部における入声舒声化の分布状況や進行パターンが明らかになったことから、今後の研究課題も見つかった。呉語全体の分析結果については、近く紀要論文で発表する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由①先行研究で得られた成果に対する補強が行えたから 当初の計画通り、過去に分析した調査データと新たに分析した調査データにおける比較分析を通して、通州方言における実態をより多角的に観察することができ、新たな知見を増やすことができた。また、その研究成果を国際学会において発表することもできた。学会の席からは、類似した現象は上海郊外でも見られるとの指摘を受け、俯瞰的な視点からの分析が欠けていることを思い知らされた。
理由②俯瞰的な視点からの分析が行えたから 当初の計画では、3月に方言調査を行う予定であったが、周知の通り、新コロナウィルスによる感染拡大により、断念せざるをえなかった。取りやめた分の予算は、資料収集費用に充てることができた。近年、中国では、まとまった地点における方言資料が陸続と出版されているが、余った予算でこれらの資料の購入が可能となった。それと同時に、文献資料における比較研究が行え、今までとは異なる視点から、先行研究を見直すきっかになり、今後の研究課題も見つかった。
|
今後の研究の推進方策 |
音声分析による微視的な研究と文献資料による俯瞰的な研究から、通州方言および呉語における入声舒声化の分布状況や進行パターンについては、理解を深めることができた。しかし、なぜ入声舒声化の発生に地域差が伴うのか、つまり、舒声化が発生する真の原理については、まだ大まかな傾向しかつかめておらず、解明には至っていない。 今後は、声調に影響を及ぼす他の言語学的要素(例えば語頭子音や母音などの分節音に関する特徴やトーンサンディなど)との関連について研究を進めながら、本研究課題のテーマである「入声舒声化の発生原理解明」について追究する予定である。
|