研究課題/領域番号 |
18K00596
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
大西 博子 近畿大学, 経済学部, 教授 (60351574)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 呉語 / 声調 / 入声 / 変調 / 舒声化 |
研究実績の概要 |
2018年度と2019年度の調査研究により、通州方言における入声舒声化について、一音節で発話される際の進行状況については理解が深められた。また通州方言が所属する呉語と呼ばれる方言群において、入声舒声化の分布と進行パターンについても考察を進めることができた。しかし、舒声化が発生する真の原理については、大まかな傾向しかつかめず、なぜ舒声化の進行に地域差が生じるかまでは解明できなかった。
よって、当該年度では、声調に影響を及ぼす言語学的要素との関連について研究を進めた。具体的には、2018年度に実施した方言調査で得られた録音データから、二音節で構成される語彙の発話データを抽出し、個々の音節の持続時間とピッチを計測し、舒声化が発生する際の音声環境を追究することを目指した。 音声分析の結果、入声字が先頭音節の場合、舒声化発生率は0%に近いが、入声字が音節末尾に来る場合、舒声化発生率は、陰入字の場合は15%程度であるのに対し、陽入字の場合は67%にまで上昇する。また先頭も末尾も入声字である場合、末尾に来る入声字は、先頭音節の入声字よりも持続時間は長めに計測され、末尾に陽入字が来た場合、その長短の差は顕著となり、舒声化発生率は100%であった。つまり入声舒声化のレキシコン内の発生条件として、①音節末尾の位置、②低上昇ピッチの両者が深く関係することが分析できた。しかし、この条件が満たされていても舒声化が発生していない例も見られ、また個人差もあり、新たな課題が残された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
主な理由として以下2点があげられる。①2地点の録音データから発話データを抽出することはできたが、音声分析を行ったのは、1地点のみの発話データで、もう1地点については、分析を行うことができなかった。②入声字を含む二音節変調の規則性を分析するまでにはいたらなった。
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今後の研究の推進方策 |
音声分析の結果は、聴覚印象と一致しないケースも見られ、特に調値(ピッチ)の分析結果は、他の研究者の先行研究とも食い違う点があった。今後は、こうした想定外の結果に対し、満足のいく説明ができるようデータの再分析を行う必要がある。 また、入声字を含む二音節変調の規則性についても考察を進め、舒声化が発生しやすい音声環境について追究していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大により、海外渡航ができず、中国での方言調査や学会発表の機会が持てなかった。これにより当初予定していた旅費が、全く使えなかった。残された経費については、主に文献資料の収集に使用したい。
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