入声舒声化に関する研究は、北方官話方言の中で唯一入声という声調を保持している江淮官話の研究者の中で盛んに行われてきた。本研究が対象とする通州方言は、呉語と江淮官話とが交接する地域に分布するため、周辺の江淮官話で発生している舒声化ほど進化していないものの、すでにその傾向は十分に観察できる。本研究において、舒声化傾向(つまり舒声化の初期段階)の発生パターンや発生メカニズムが明らかになったことで、江淮官話における入声舒声化の発生要因を裏付けるデータが提供できた。このことにより、官話方言(現代中国語)における入声のより早期の姿が再構築でき、入声がなぜ消滅したのか、その謎に一歩迫ることができたと考える。
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