本研究課題は〈形容詞連用形+動詞句〉に生じる「一成分・多解釈」の現象と構成過程を構文ネットワークモデルの枠組みで記述することを目的とする。令和4年度の研究成果として以下を発表した:[1]井本亮(2023)「「パイりんご文」の位置づけについて」(現代日本語文法研究会第19回大会研究発表) 本研究は「アップルパイにリンゴが大きく入っている。」のような事例(「パイりんご文」)を【場所におけるモノの結果相での存在のあり方を表す形容詞連用構文+動詞述語文=「空間存在に関わる形容詞連用構文」と呼称】の一類型と位置づけ、その成立条件の有標性を仮定した。そして、位置変化事象に関わる形容詞連用構文の結果表現が構文的にどのように分布しているか、その成立条件の有標性と標準的な結果構文からの相対的距離を分析・記述する視座を提案した。 その結果、次の知見を得た。第一に、〈場所〉〈対象〉〈存在〉〈モノの存在のあり方〉を共通の構成要素とする位置変化・展示・発生・作成の事象類型において、場所におけるモノの結果相での存在のあり方を表す形容詞連用修飾関係が成立すること。 第二に、この〈存在〉は正確には結果相におけるモノの存在=〈結果存在〉であること。〈結果存在〉は動態事象の構成要素であり、状態事象としての〈存在〉を修飾できない形容詞連用修飾でも成立可能である。 空間存在に関わる形容詞連用構文は〈位置変化・展示・発生・作成〉などの事象類型に及んでおり、先行研究で散発的な指摘はあるものの、状態変化の結果構文から見ればすべて周辺的・逸脱的と捉えられ、体系的な記述・分析は行われてこなかった。本研究の提案する構文ネットワークモデルはこの視座を得るために有効であり、またパイりんご文に現れる「大きく、小さく、細かく」などもまた、それぞれの形容詞連用成分の「一成分・多解釈」のうちの一事例、しかも本研究で新規に見出された事例である。
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