研究課題
令和元年度は、高山寺蔵『打聞集』の原本調査研究の成果を発表した(図書1件、雑誌論文1件)。これまでの研究により、談義の聞書としての『打聞集』について、特定の人物が関わる一連の記録としての一貫性を持つ一方で、各談義の内容によって教釈的な文脈と説話的な文脈とが混在するテクストである本資料の言語の実態(混交的様相)が明らかとなってきた。この点を表記様式の観点から見れば、漢字に仮名が交じる度合いが内容と大凡の対応を見せており、漢文体に近い表記様式による教釈的な文脈と漢字片仮名交じりの表記様式による説話的な文脈との間には、そこに用いられる語彙や文法的特徴と関連する文体的位相性が認められることが分かる。このことから、仮名表記自立語の存在を観点として、口語的要素が説話的文脈に多く現れる実態を記述した。その一方で、和化漢文的な表記様式を中心とし口語的要素が少ない教釈的文脈に現れる和文語系接続詞「さて」について、次第の有り様を説く解説の文脈の展開を支える機能を有していることを指摘した。このことから、『打聞集』に教釈的文脈と説話的文脈という異なる内容とそれを記録する異なる表記様式が認められる中で、両者が個々別々の言語的位相を示すだけでなく、談義の記録としての言語の基盤とも呼ぶべき共通性によって支えられたテクストである可能性を指摘した。この他、注釈・論義資料の周辺に位置する和化漢文の仏教説話テクスト(注好選)に見える全訓付訓漢字について、平安・鎌倉期の古辞書に認められない漢字と訓との繋がりが見える点に着目し、テクスト享受の場・目的において、漢字漢文理解の訓読から内容伝達のための訓読へと言語の場が広がりを見せている可能性を指摘した。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度は、これまでの調査研究に基づき、図書1件、雑誌論文2件、学会発表5件の成果を公にした。これにより、前年度の遅れを取り戻すことができたと考える。
令和2年度は、談義聞書資料の『打聞集』について、言語の共通基盤の解明を用字法・文章構造の観点から進め研究成果をまとめる。また、論義・注釈資料の周辺に位置付く和化漢文・漢字片仮名交じり文資料の調査を行い、対象資料の拡充に努める。さらに、本研究が対象とする仏家の論義・注釈資料が示す書記言語の特質について、具体的な言語事象に基づき記述を行い、和化漢文(変体漢文)研究・日本語史研究上の言語の変遷に位置づけることを目指す。
年度末に予定していた調査研究が、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から中止となったことによる。令和2年度は、中止となった調査を補完しつつ予定された研究計画を遂行することとする。
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すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (5件) 図書 (1件) 備考 (1件)
言語の普遍性と個別性
巻: 11 ページ: 1-13
令和元年度高山寺典籍文書綜合調査団報告論集
巻: 令和1年度号 ページ: 118-122
http://researchers.adm.niigata-u.ac.jp/html/100000729_ja.html