研究課題/領域番号 |
18K00608
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
白井 純 信州大学, 学術研究院人文科学系, 准教授 (20312324)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | キリシタン版 / 漢字 / 和訓 / 落葉集 / 訓読 |
研究実績の概要 |
キリシタン版漢字辞書『落葉集』の漢字と和訓の関係には、それぞれの漢字を代表する和訓が定訓として漢字表記と排他的に結び付き、その関係がキリシタン版国字本の漢字表記にも反映されている。 キリシタン版にみられる定訓は、当時の日本語においてどの程度定着していたのだろうか。今年度は、当時の漢字と和訓の関係を探るための資料として、京都の槇尾平等心王院で出版された『脩華嚴奧旨妄盡還源觀』の古活字本二種類と、後にその古活字本の覆刻版として京都の書肆、野田弥兵衛が出版した整版を選び、漢字の付訓状況を整理し、キリシタン版『落葉集』の定訓との関係を探った。 『脩華嚴奧旨妄盡還源觀』古活字版の印刷は白文のみで、異なる人物によって訓読が記入されており、どのような漢字や和訓に付訓するのか比較することができる。更に、古活字版をもとに出版された覆刻整版では和訓も含めた訓読が印刷されているが、古活字版が関係者の利用に限定される少部数出版であるのに対し、整版は一般社会向けに多数出版する印刷物としての性格を備えており、異なる階層に属する人々がどのような漢字と和訓を難読として付訓するのか知ることができる。 調査の結果として『脩華嚴奧旨妄盡還源觀』の付訓はキリシタン版『落葉集』の定訓に一致する箇所では付訓が少なく、それに反する例外的和訓の箇所に多いことが判明した。このことは、キリシタン版『落葉集』にみられる定訓が、当時の一般社会の漢字使用の実態を反映しており、漢字表記を支える重要な要素だったことを示している。 今年度は、これらの成果を論文として2本投稿し、ブラジルのカンピ―ナスで開催された第12回ブラジル日本研究国際学会で基調講演および研究発表を行い、日本語独特の課題である漢字と和訓の関係について解説した。また、所在が確認できる4冊目のキリシタン版『日葡辞書』をリオデジャネイロ国立図書館で発見し、研究分野の進展に貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
キリシタン版『落葉集』の定訓に関係した成果を含む3本の論文を投稿し、同じく、関係した成果を含む1本の講演、2本の研究発表を行った。 また、サンパウロ大学客員教授として同大学院で講義を担当したほか、リオデジャネイロ連邦大学、アマゾネス州立大学において出張講義を行い、後進の育成を行った他、複数の大学研究者と国際的な研究協力の体制も構築した。 更に、キリシタン版『落葉集』の定訓と強い関係をもつキリシタン版『日葡辞書』について、所在が確認できる本として4冊目となるリオデジャネイロ国立図書館本を発見し、ニッケイ新聞(サンパウロ)、日経新聞や中日新聞など、国内外の報道でも大きく取り上げられた。リオ本『日葡辞書』については図書館および出版社との交渉のうえ複製本として刊行する見通しを立て、より広い範囲で学界に貢献することが可能になったため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、仏典ではない日本語の資料を対象として漢字と和訓の関係についての調査を行い、異なる局面でどのような付訓がみられるのかを引き続き検証する。 それと共に、キリシタン版国字本において例外となる漢字と和訓の関係について、なぜそうした問題が生じるのか詳しく検討し、定訓という概念自体の理論的課題を明らかにしたい。
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