研究目的を大別すると、次の4点になる。①対照談話論という新たな領域における方法論の開拓、②日本語、韓国語、中国語の談話を対照させることによって、ソトの観点から日本語談話の特徴を記述すること、③日本語談話を対象に、ウチの視点から日本語談話の特徴を記述すること、④ソトの視点とウチの視点を交差させることによって、発想と表現の点から談話論の枠組みを整備し、日本語談話の記述を行うこと。これにもとづき、研究最終年度である本年度は、次の点を明らかにすることができた。 第1に、談話単位の性格を、内言という観点から分析考察したことである。まず、内言と外言の区別を提唱しているヴィゴツキーを再読し、内言の定義について整理を加えた。しかるのちに、日本語談話における「心に残る一言」をとりあげ、他者のことばが音声の形のまま内言に留まり、その個人の言語生活を参照資源とした意味内容と価値の重層性をそなえ、外言化されない談話であることを述べた。これまでの本科研課題で対照談話論を用いて明らかにしてきたように、談話構築態度が日韓中で異なっているとしたら、談話受容態度にも当然ながら日韓中で異なりが見られる可能性がある。また、表現と理解は鏡像ではないという昨年度の研究をふまえて、「心に残る一言」というジャンルの特徴を、まず、日本語談話に即して発見、記述、説明をした。 第2に、依頼談話の発想と表現の観点から、これまでの研究の総括を行った。昨年度に続き、世界的なCOVID-19の流行に伴い、一堂に会しての研究打ち合わせが困難であった。そこで、予定していた研究活動を変更し、これまでの研究をまとめることに切り替えた。その結果、国際共著として刊行することができた。
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