研究課題/領域番号 |
18K00610
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
矢島 正浩 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (00230201)
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研究分担者 |
揚妻 祐樹 藤女子大学, 文学部, 教授 (40231857)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 条件表現史 / 近代日本語史 / 順接条件 / 逆接条件 / 音読/黙読 / 言文一致 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本語が複数の層にわたって運用されていることに注目し、その観点から条件表現史を捉えることを目指すものである。今期に関する具体的な取り組みは以下のとおりである。 (1)古代~現代の各資料について、コーパスを用いて逆接条件に関与する表現のデータ入力を行った。特に洒落本・浄瑠璃については、目視によるデータ入力を並行して、コーパス検索で取り上げるべき言語事項の精査、アノテーションの付与によってデータの信頼度・精度をあげることに努めた。 (2)順接接続辞の接続詞的用法の運用法について、話し言葉性が色濃く反映する言語層の観察を通して把握し、近代日本語の特徴の一面として位置付けた。逆接接続辞の運用法については、言語層の規範性の強弱と、近代日本語の対人コミュニケーション意識の発露の在り方が関わっていることに着目し、ガとケレドがそれぞれ異なったニーズにおいて使用を広げていることを論じた。 (3)逆接仮定表現が、基本的に古代は[事態の描写]に対して[表現者の見解]をつなぐ方法であり、近世以降は[前件+後件]の生起関係に対する表現者の捉え方を表し分ける方法であることを総括的に明らかにした。活用語尾の機能後退、事態の区別([出来事性(タラ・タッテ)vs.事実性(ナラ・ダッテ)])重視、恒常性を持った表現の増加など、順接仮定表現と一体的に観察される側面についても具体的に指摘した。 (4)明治中期以降の小説の文体(言文一致体や雅俗折衷体)に見られる言語的諸相(偶然確定条件・話法・ノダ類・語彙など)を<語り>と関連付けて観察し、音読から黙読へと読書習慣が変化する中、それぞれの書き手の表現意図と文体とのかかわりを明らかにした。また、現代日本語における表現法(応答表現)の揺らぎに着目し、表現意識と表現とのかかわりを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題において重要な柱と位置付けていたSP盤落語資料を用いた研究論集が刊行の運びとなり、一区切りを迎えた。もう一点、研究の基盤の構築として逆接辞の言語調査を進めることを優先課題としていたが、国立国語研究所のコーパス化事業の進展により、順調に進めることができている。 本研究課題で注目する言語の複層性は、古代語と近世以降の言語とで大きく異なっている。その言語的状況が、資料の制約という側面の反映と、言語文化の変容に伴う本質的な部分の変化の結果と、両面によって顕在化しているものであることが次第に明らかになってきている。一方で、両要素が具体的にどう関与しているのかを見極めることは容易ではない。その点への対応が、今後、重要だと考えている。 課題の鮮明化も含め、全体として順調に進展している状況にあるとみている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、研究代表者はすでに入手済みのデータに基づいた分析を中心に行う。研究分担者は、引き続き近代文体史の解明を行う。具体的な内容については以下の(1)~(4)に記すとおりである。個々の成果については、適宜、論文執筆、口頭発表によって公にしていく予定である。 (1)逆接条件に関するデータ化を質量ともに充実させ、それに基づいた用法整理、分析を行う。 (2)落語資料については「上方はなし」を重点的に取り上げ、近代日本語史に位置づけた分析を詳細に行う。これについては口頭発表を予定している。 (3)近世期逆接仮定史を近世の日本語史という枠組みに位置づけながら記述する。現代語における各接続辞は、それぞれ活躍する言語層が異なる。その今日的な用法の分布は、各接続辞がいかなる出自で、どういう過程を経て使用されてきたのかということ、どう結びついて実現しているのか、明らかにする必要がある。成果は論文化する予定である。 (4)近代文体史については、個々の作家の活動について観察を継続し、これまで明らかにしてきた知見と合わせて著書として刊行する予定である。また、それと並行して現代日本語の規範からの逸脱する諸現象について観察し、その社会的、心理的背景を分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:計画に従って予定通りの予算消化を行ったが、データ入力に関わる謝金に関しては、想定以上にコーパスの整備が進み、そちらの調査に傾注すべき状況が生じたことによって、一部に変更を生じた。また、2020年2~3月に予定していた研究会がCovid-19の影響で軒並み中止となり、旅費が想定より低く抑えられることとなった。 使用計画:Covid-19の影響により、在宅で行う研究活動に必要な環境を整備する必要がある。その点での変更以外は、当初の計画に従って行う予定である。
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