研究課題/領域番号 |
18K00614
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
岸江 信介 奈良大学, 文学部, 教授 (90271460)
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研究分担者 |
西尾 純二 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 教授 (60314340)
峪口 有香子 四国大学, 地域教育・連携センター, 講師 (10803629)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 配慮表現 / 無敬語地域 / ウチ/ソト / 上下関係 / 疎遠関係 / 個人差 / 社会的属性 |
研究実績の概要 |
本研究では、主に関西と関東における無敬語地域の配慮表現に注目し、無敬語地域が有敬語地域とは異なるウチ社会を基盤とした言語共同体を形成しているという仮説のもとに配慮表現の研究を進めている。関西地域においては、すでに有敬語地域である京都・大阪をはじめ、無敬語地域である熊野・新宮地方などで多人数の調査を実施し、有敬語地域における配慮表現の運用状況のみならず、無敬語地域における配慮表現の実態についても把握することにつとめてきた。 現代日本語の待遇表現や配慮表現の使い分けの目安とされてきた目上/目下,ウチ/ソト,心理的・社会的距離の遠近,親疎関係,恩恵の有無といった敬語地域では成り立つが,無敬語地域にもこの軸を当てはめ,有敬語地域と比較することはできるのであろうか。 無敬語地域では,地域を構成する成員間の関係が都市部と比較してより緊密であり,ウチ/ソトといった関係も,都市部とは異なり,ウチ社会のみをベースとして形成されていると考えられる。無敬語地域では一般的に敬意表現や配慮表現が有敬語地域と比較して希薄に見えるのは,このような要因が大きく関与しており,ウチ社会独特の言語行動の規範となるメカニズムが存在するという仮説を立てることができる。 この仮説検証のため,本年度はおもに無敬語地域とされる北関東地域の茨城県の漁村地域を中心に調査を実施した。この調査を進めるなかで次第に明らかになったことは,無敬語地域といえども都市化が急速に進みつつあり,従来、無敬語地域とされてきた地域の有敬語化が起きており、この変化はかなり進行しているということであった。これに伴い、配慮表現の運用についても、有敬語地域とほとんど変わらない実態が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、無敬語に近いとされてきた茨城県各地(北茨城市、日立市、ひたちなか市、水戸市)などの北関東地方を中心に配慮表現に関する面接調査およびアンケート調査を行い、無敬語地域間相互の配慮表現について比較を行った。調査の対象地域の選定にあたってはいずれの地域も、無敬語の特徴を最もとどめており、かつ配慮表現の運用についても、伝統的な北関東地方の特色を残していることが期待される地域であることを条件にした。すでに調査を終えている西日本の洲本市や南あわじ市を中心とした淡路島地方、ならびに熊野市や新宮市を中心とした熊野灘地方においてもほぼ同様の理由で地域と話者の選定にあたった。各地域での話者数は、淡路島や熊野灘沿岸地方においてはいずれも80名、北関東地方においても40名近く、話者数としてはけっして少なくはなかった。しかし、大半の話者は「無敬語の伝統方言しか話さない話者」ではなく、例えば同じ地域コミュニティーの成員に対しては目上であろうと無敬語と話すが、コミュニティーに属さない外来の訪問者(部外者)には敬語での待遇を行うといった、「敬語と無敬語を使い分ける」話者が多いことが明らかとなった。このような状況のもと、配慮表現に関する調査を進めた。調査内容は、自分からの働きかけ(行為指示型:依頼・勧誘・禁止など)や、相手からの要求に対する応答(要求応答型:受託・拒否・保留など)のほか、感謝や謝罪などの配慮場面を想定した調査を行った。各地域とも同一の調査票を用い、対人配慮に関して話者が異なる聞き手に対し、どのような意識を有しているか、話者にきめ細かい内省を求め、目上/目下、ウチ/ソト、疎遠関係や社会的・心理的距離、恩恵関係などによる使い分けにおいてどのような差がみられるのかに焦点を当てた。この調査のほか、茨城県各地域で、地元の人同士の自然会話の収録を行った。
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今後の研究の推進方策 |
北関東および淡路島、熊野灘の各地方は、日本の方言学ではいずれも無敬語地域と位置づけてきたが、いずれの地域も有敬語化が進み、従来、これらの地域において多く見られた無敬語をベースに各地域の伝統方言を話す話者が急速に減りつつある実態が明らかとなりつつある。すでに西日本での調査結果の整理は終えているが、茨城調査でのデータ整理はまだ完了していないため、まず、推進すべく方策の第一として、茨城でのデータ整理を終える予定である。 さらに昨年度行った茨城調査で出会った北茨城市やひたちなか市の話者を再訪し、配慮表現の、さらなる詳細なる調査を実施する予定である。すでに述べたように予想以上に有敬語化現象が進んでいるため、北茨城地方の伝統方言話者を求めて古老層を中心に探すことも計画に加えたい。 また、最終的には、関東、関西両地域における無敬語地域方言の調査結果を比較する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
9月に本課題の研究代表者、分担者、研究協力者、計7名に加えて研究協力補助の学生4名で、茨城県北茨城市、日立市、ひたちなか市、水戸市の各地での調査を実施した。この調査結果を吟味し、改めて本年度3月、研究代表者(岸江信介)および分担者(西尾純二)は、主に北茨城市で、再度、面接調査を計画していたが、新型コロナウイルスにより、不要不急による自粛を求められ、調査の実施を断念した。 次年度、夏以降、新型コロナウイルスが終息し、安全が確認された時点で、再度、北茨城市への調査を計画している。
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