研究課題/領域番号 |
18K00616
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研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
勝又 隆 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (60587640)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 名詞性述語 / 係り結び / 形式名詞 / 連体形 / 文末名詞 / 係助詞ソ / 係助詞ゾ / 連体形+ゾ |
研究実績の概要 |
本研究は、古代日本語において述部に連体形や名詞が含まれる文(名詞性述語文)について、それぞれの構文的特徴や文意味・文機能等の観点からその名詞的性質について分析し、古代語の文終止体系におけるこれらの構文の位置づけを明らかにすることを目的とする。平成30年度における主な研究成果は以下の2点である。 (1)「上代日本語におけるソの係り結びと連体節について」(口頭発表、NINJAL-Oxford 通時コーパス国際シンポジウム「通時コーパスに基づく日本語文法研究」、2018年9月8日) 上代におけるソの係り結び構文は、他動詞は目的語、非意志的自動詞は主語が係助詞ソの上接語となることが多い(勝又隆(2015))。本年度は、この傾向が「連体節述語と主名詞」「終止形終止文の述語と同一文中で言語化される補語」にも見られることを明らかにした。また、「連体形+名詞+ソ」文との比較も行い、その焦点範囲の類似性についても指摘した。 (2)「中古散文における「連体形+ゾ」文と連体ナリ文の用法上の差異について」(口頭発表、「通時コーパス」シンポジウム2019、2019年3月9日) 中古日本語において、現代語のノダ文と構造・用法の点で類似した構文として、連体ナリ文がある。しかし、連体ナリ文は「知識表明文」(「提示」のノダ)の用法は持つが、「判断実践文」(「把握」のノダ)の用法は無いとされる(福田嘉一郎(1998))。一方、「連体形+ゾ」文は「提示」の用法に加え、「われゆゑにかかる目を見るぞと思ふに(「自分のせいで姫君がこんな目をみるのだ」と思うと)」(落窪物語)のように、「把握」のノダの用法が散見される。こうした差異は、未整理の状態であったが、中古散文における「連体形+ゾ」文の用法を整理し、「想起」を含む「把握」のノダに当たる用法を持つことが、連体ナリ文と比べた場合の「連体形+ゾ」文の特徴であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
係助詞ソの機能や、名詞性述語文の特性を明らかにするには、係り結びの関わらない、終止形終止文一般との違いを明らかにすることも必要である。その意味で、成果の(1)において、ソの係り結び構文の上接語の分布に関する特性が、連体修飾節一般や、終止形終止文一般と共通するものであることがわかったことは、大きな進展と言える。2015年に日本言語学会大145回大会で口頭発表した際は、コソやカによる係り結びには見られない、ソ独自の傾向であることを指摘した。しかし、この時点ではこの傾向がソによる係り結び構文の特徴ということは言えても、何がこのような傾向をもたらしているのかは不明であった。今回の成果によって、これが係助詞ソや「ソ―連体形」という形式に由来すると考える蓋然性は低いということがわかった。 また、中古の「連体形+ゾ」文が、連体ナリ文にはほとんど見られないとされる「把握」のノダの用法を持つことを示すことができた点は、名詞性述語文の体系を明らかにする上で前進と言える。従来、文末のゾは連体ナリ文ほどには重視されてこなかったが、より現代のノダ文に近い用法を持つのは「連体形+ゾ」文であり、より詳細な分析が必要である。 現代語の方言にもノダ文相当の構造と機能を持つとされる構文を複数持つ例が知られており、古代語の体系を明らかにすることは、通時的変遷だけでなく、地理的変異も視野に入れた対照研究への波及も期待される。
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今後の研究の推進方策 |
研究成果(1)と関連して、ソ以外の係り結び構文のうち、ヤとナモについては構文的特徴の違いを正確に記述していないため、その調査を終えた上で、上代における係り結び構文の上接語の特徴と「焦点」についてまとめる。また、「連体形+名詞+ゾ」文についても、上代の類型とその表現性、構文的特徴について記述し、ソの係り結び構文との共通点と差異を明確にする。また、中古についても同様の調査を進め、上代と中古の差異について考察する基礎とする。 研究成果(2)について、中古の「連体形+ゾ」文の類型と用法の記述を用例数も含めて明確にし(解釈上、用例の分類が難しい例については別にしつつ)、連体ナリ文の調査と併せて両構文の差異を明確にする。 また、「連体形+名詞」が主語・目的語・述語等、どの位置に現れるかについて上代・中古について調査を進め、特に述語になる場合についてどのような用法を持ちうるかを記述した上で、係り結び、「連体形+コピュラ」、「連体形+名詞+コピュラ」それぞれの構文による共通点と差異について考察する。 なお、係り結びやノダ文相当の形式については、方言等、古代日本語以外の研究成果との関わりも想定されるため、情報収集や意見交流も行い、幅広い視点からの考察を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費とその他での支出が想定よりも少なかったため、残額が生じた。物品費については、一般的に当該年度にどのような研究書や資料が出版されるかによって調整が必要となる場合がある。そのため、次年度の購入に回した資料などがある。その他については、英文への翻訳・校正費用を算出していたが、国際シンポジウムにおける口頭発表にかかる翻訳費用は国立国語研究所のプロジェクト経費から支出されたため、使う機会がなかった。 次年度は、物品費として主に古代日本語図書資料や文法および日本語史関連研究図書と文房具等、旅費として情報収集としての学会・シンポジウム・研究会等の参加、成果発表としての学会・シンポジウム・研究会等の参加等、その他として、文献複写費と英文翻訳・校正費を見込んでおり、次年度使用額は主として旅費に充てる予定である。
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