研究課題/領域番号 |
18K00616
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
勝又 隆 学習院大学, 文学部, 教授 (60587640)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 名詞述語文 / 連体修飾 / 係り結び / ゾ / 主名詞 / ソ |
研究実績の概要 |
本年度は、主に以下の二つに取り組んだ。(1)『万葉集』を調査対象として、文の主題に着目し、「連体形+名詞+ソ」文と、ソによる係り結び文の違いに関する調査と考察を行い、成果を論文「『万葉集』における「連体形+名詞+ソ」文とソによる係り結び文の主題と表現性について」(『福岡教育大学国語科研究論集』2024年2月)として公刊した。(2)平安時代の散文資料を調査対象として、「連体形+名詞+ゾ」文と「連体形+名詞+ナリ」文における、名詞に前接する要素の違いに関する調査と考察を行い、「中古散文における「連体形+名詞+ゾ/ナリ」文の特徴について」という題目で、第230回青葉ことばの会(学習院大学/オンライン同時配信、2024年3月23日)において口頭発表を行った。 (1)奈良時代のソによる係り結び文と、ソが文末に現れる「連体形+名詞+ソ」文との違いは、十分には明らかにされていない。そこで『万葉集』を調査対象として、ソによる係り結び文と「連体形+名詞+ソ」文の主題、つまり、その文が「何を説明している文なのか」に着目し、ソによる係り結び文はその事柄が「どういう事態なのか」を説明する構文であり、「連体形+名詞+ソ」文はその物(者)が「どういう物なのか」について説明する構文であると主張した。 (2)平安時代における「連体形+名詞+ゾ/ナリ」文の述語名詞に前接する助辞(助動詞)は、ゾ・ナリと名詞の組み合わせによって分布の違いが観察される。例えば、ベキはベキコトゾ・ベキコトナリ・ベキモノナリという承接は見られるが、ベキモノゾという承接は見られない。一方、ムはムモノゾという承接は見られるが、ムコトゾ・ムコトナリ・ムコトナリという承接は見られない。そこで、平安時代の当該構文の構文的特徴を「連体形+ゾ/ナリ」文や上代の当該構文とも比べながら記述し、このような分布が意味するところについて考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成果の(1)は、奈良時代の名詞述語文の一種である「連体形+名詞+ソ」文と、ソによる係り結び文の違いについて論じたものである。論文では言及していないが、「連体形+名詞+ソ」文は語順などの点でいわゆる「喚体」の文(意味的には英文法で一般に言う感嘆文に近い概念)と共通する特徴を持った用例が存在する。従来、平叙文の一種として考えられていたソによる名詞述語文と喚体との関係を明らかにする必要があることが明らかになった点で、今後につながる成果が得られたと言える。 成果の(2)は、「連体形+名詞+ゾ/ナリ」という形式を持つ名詞述語文において、名詞に前接する要素の分布に違いが見られる点を指摘しており、両構文の違いを知る上で抑えておくべき事実を把握できた点で重要性が高い。さらなる調査と分析を重ねることで、より精密かつ具体的な成果が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
上代(奈良時代)および中古の「喚体」の文と「連体形+名詞+ソ/ゾ」文との共通点と相違点について調査・考察を行い、「連体形+名詞+ゾ」文の文機能を文の種類における位置づけを明らかにする。 中古(平安時代)の連体形+名詞+ゾ/ナリ文の名詞に前接する要素の分布とその原因について調査・考察を進め、それぞれの構文の働きについて明らかにする。 中古のゾ・ナム・コソの係り結びと「連体形+ゾ」文、連体ナリ文、モノゾ文、モノナリ文について、文章・談話における出現位置について調査し、整理することで各構文の談話構成上の役割を明らかにする。 上代及び中古の係り結び構文や形式名詞述語文と、名詞述語文・動詞述語文・形容詞述語文との共通点と相違点について整理し、「名詞性述語文」の位置づけを示す。 主節における「名詞性述語文」の特性が、従属節において形式名詞や連体形接続の接続助詞が関わる場合と、どの程度共通し、どのような点が異なるかを分析することで、主節と従属節それぞれの特性を整理し、「名詞性」という概念自体について精査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の影響による特例での研究期間延長に該当しており、経費の使用は前年度からの繰越金5,444円のみであった。最終年度に当たる2024年度に研究成果をまとめる上で生じるプリンタのインク代や書類整理のためのファイル等の購入に使う予定である。
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