「学術論文叙述のスタイル」(『日本語文法』22(2))において、歴史学・哲学・心理学分野における学術論文において注釈的表現である〈予告表現〉と過去形のある種の表現について考察を深め、その叙述のスタンスについて大きく2つの異なった立場があることを指摘した。すなわち、あたかも読者を目の前にしてリアルタイムに実演しているかのように、そして読者と共に〈道程〉を歩みながら道案内するかのように叙述するスタンスと、既に終わった実験結果・研究成果について客観的に報告するスタンスである。 愛知県立大学学長特別研究費(令和4年度)「談話品詞論としての出会いと別れの研究」を研究代表者として得て、以下の研究発表を行った。「コミュニケーションの場が一(いち)から作られるまで――自己の体験と狂言台本より――」(コミュニケーションの民族誌、2023年1月)において、全くの初対面の2人同士など、2人がまだ同じ談話の〈場〉を形成していない段階から談話が開始されるまでの、いくつかの類型や方策について考察した。最初の発話(1の段階)が始まる前に、相手を相手として認識する(0の段階)があることを指摘した。この「0の段階」ではまだ言語表現はなく、或るきっかけによって相手の存在を認知するだけであるが、この段階がないと「話が始まらない」ことの重要性を指摘した。加えて自分自身が談話の〈場〉を形成するための方策を欠きがちな言動の傾向を持ち、そうした青少年時代を長らく過ごしてきたことの気づきを得た。
|