① 実態調査としては、高齢者1名ごとに1週間ほどの長期にわたって対面調査をおこなうものであるため、いまだ新型コロナウィルス感染症の蔓延がおさまらない状況では高齢者に対して特段の配慮をせざるをえず、今年度前期の調査の実施は見送らざるをえなかった。蔓延状況がやや収まりを見せた後期には、期間の短縮を踏まえて、能登半島各地の既調査地での確認・補充調査を中心とした調査に計画を変更したが、折あしく研究代表者が足を骨折してしまい、さらには能登半島地震という大災害が発生したため、これも断念せざるをえなくなった。 今回の補助事業期間はそのほとんどがコロナ感染症蔓延下となり、計画した調査を完了することできなかったが、それでもコロナ以前に、石川県白山市白峰方言、三重県南牟婁郡御浜町阿田和方言、香川県観音寺市方言というアクセント活用に関しての最重要地点の調査を行い貴重なデータを得ることができた。 ② 今年度は、理論的・文献的調査については大きな進展が得られた。まず、二段活用動詞を「複数の語幹を持ち、それらを切り替えて用いる動詞」として捉える視点を得たことで、その後の歴史的変化(「一段化」)の動因や、関連する事象も統一的に説明することが可能になった。 次に、自他対応動詞の自他の対応タイプごとに、その対応タイプをとる語根の意味的分布に偏りがあることを明らかにすることから始めて、タイプごとに限られた語根にしかつかない自他標識を、多くの動詞に付きうるように一般化することで、(元のタイプの意味的偏りに応じた機能差をもって)各種のヴォイス接辞が生じてきたことを明らかにすることができた。 この補助事業期間では上記のほかにも、音便形について理論的・歴史的な成果が得られた。また、一般史料であっても動詞の送り仮名や、逆順表記が、その時代のアクセント単位を表すデータとして使えることを明らかにすることもできた。
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