最終年度は放送ライブラリーにて1980年代から2000年代にかけて制作されたテレビ番組(教養番組)を視聴し番組で描かれた方言の表象と、当時の方言研究や地方文化・地方行政に関わる研究で指摘されていた方言の実態や地域社会の実情を照合しながら研究を進めた。 とりわけ興味深い傾向が見られたのは東北方言と関西方言である。東北方言は方言自体が番組の題材として取り上げられることが多い。方言が番組を進行するための手段として使われるのは方言の使用が特徴となっている東北出身のタレントが活躍する場合が主である。 一方、関西方言は番組で取り上げた話題や題材が関西文化の一部であることを視聴者に印象付けるための手段として使われる場合が多い。とりわけ、テレビ番組における手段としての関西方言は全国で同じテーマの番組を制作した際に顕著となる。 こうした違いはあるものの、東北方言と関西方言はテレビ番組のコンテンツとして積極的に取り入れられており、両方言に対する現代社会の関心の高さがうかがえる。 また、先行研究では1980年代以降のポストモダニズムの時代に方言は若い世代を中心に自己表現の媒体として肯定的に評価されるようになったと指摘しているが、若い世代に向けて制作された方言を題材とした番組(娯楽番組)を視聴する限り、方言に向けられた若者の心理の内実は複雑である。若い世代で人気を博した番組では価値観が多様化する現代において円滑な人間関係を築いていくための指針のような役割を果たす言葉として方言が演出されている。
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