日本語の近代は明治中期の文語文から口語文への移行から本格的に始まった。明治期に入ってから、日本語の語彙が大きく変容した。漢語系学術用語の他に、二字漢語サ変動詞語幹と漢語形容動詞の急増も目立っている。学術用語は、西洋の新しい学問を受容する際、新概念の表出に貢献するのに対し、二字漢語動詞、形容動詞は、必ずしも新概念を表すものではなく、叙述の枠組みを提供するものである。いずれも言語の近代化に深くかかわる要素だが、語彙体系の整備という視点から考察する研究は少ない。本研究は、これまでの術語中心の新漢語の研究成果を踏まえ、サ変動詞語幹と形容動詞を中心に考察してきた。日中における二字語漢語の近代以降の活発化を記述すると同時にその原因を解明すべく研究を重ねてきた。コロナ禍のため、研究計画は、一年延期し、2018-2021年までの4年間実施した。2021年度は、研究期間の最後の年で、雑誌論文6編、図書は、共編著1点を公刊した。オンラインによる基調講演を4回行っている。2019年10月に出版した『漢語近代二字語研究――語言接触與漢語的近代演化』を踏まえ、さらに二字語活発化のメカニズム、日中両言語の相互影響、文体変革との関係について考察した。これまでの研究活動を通じて、二字近代漢語(サ変動詞語幹と形容動詞が主体)と言文一致運動との緊密な関係に気づいた。また国際交流によって明治日本の言文一致運動とその語彙的基盤について、深く思索する機会が得られた。2021年の研究成果に、言文一致運動と二字漢語との関係を論ずる論考は、二編あった。近代の言語事件として、日本だけでなく、東アジア諸国にも波及した言文一致運動とその語彙的基盤について今後、研究をさらに深めていきたいと思う。
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