研究課題/領域番号 |
18K00636
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
金子 義明 東北大学, 文学研究科, 教授 (80161181)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 極小主義プログラム / 論理形式 / 時制解釈 / 付加詞節 / 転送 / 意味解釈 |
研究実績の概要 |
本研究は、極小主義プログラムの新たな展開を踏まえて、概念・意図システムへの入力としての論理形式表示のあるべき形式と解釈を明らかにすることを目的とする。具体的には、①適切な解釈に対応するラベル付けの解明、②付加構造の解釈の解明、③遂行節の詳細な構造の解明により、新たな論理形式表示の理論を提示することを目的とする。①のラベル付けに関しては、極小主義プログラムにおけるラベル付けアルゴリズムを提唱したChomsky(2013)、およびChomsky(2015)を基盤として、日本語の格助詞に関わるラベル付けを提案し、その帰結を考察したSaito(2016)、凍結効果をラベル付けによって説明する分析を提案したBoskovic(2019)、ラベル付けに関わる最新の論文集であるBauke and Blumel (eds.)(2017)等を批判的に検討した。②の付加構造の問題に関しては、等位構造制約と付加詞条件を考察したBoskovic(2018)、付加詞の外置現象の生成過程について基底生成と移動による分析を比較考察したReeve and Hicks(2017)等を検討した。③の遂行節については、修辞疑問文の疑問文としての統語的・意味的特性を考察したCaponigro and Sprouse(2007)、極小主義プログラムにおける連鎖の概念を考察したMartin and Uriagereka(2014)“Chains in Minimalism,” 等を検討した。このような研究の成果として、金子(2019)「時の付加詞節における時制の調和現象と極小主義プログラムについて」として発表した。これに加えて、文献および研究情報の収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は全体として4年間にわたる研究であり、初年度を基盤的研究年度、2年目を拡充的研究年度、3年目を展開的研究年度、最終の4年目を総括的研究年度と位置づけて行う。今年度は初年度の基盤的研究年度であり、3つの具体的目標である、①適切な解釈に対応するラベル付けの解明、②付加構造の解釈の解明、③遂行節の詳細な構造の解明についての基盤的研究を行った。その成果は論文として、金子(2019)「時の付加詞節における時制の調和現象と極小主義プログラムについて」を発表した。同論文では、Geis(1970)Adverbial Subordinate Clauses において時制の調和現象と名付けられた、英語の時の付加詞節の時制と主節の時制との間に見られる制約(cf. John left before Bill left vs. *John left before Bill leaves)を考察し、この現象の実証的記述を精緻化するとともに、極小主義プログラムの最新の展開に対する理論的帰結を考察した。その結果、時制の調和現象を適切に捉えるためには、時制の統語的同一性に基づいて述べることはできず、意味解釈プロセスとしての時制解釈によってもたらされる時制構造に言及する必要があることを論じた。その帰結として、インターフェースへの転送後も統語対象はそのまま残り、統語構造全体を領域にしてフェーズを越えた意味解釈操作の適用を可能にするChomsky, Gallego, and Otto(2017)の提案が支持されることを論じた。この結果は、極小主義プログラムの最新の展開を踏まえた、論理形式理論を構築する上で、重要な基盤となる成果である。今年度は遂行節関係の文献が少なく、その方面の研究が手薄であったので、次年度以降、強化していきたい。以上より、今年度の研究進捗状況は概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、本研究は全体として4年間にわたる研究である。今年度は初年度の基盤的研究年度であり、3つの具体的目標である、①適切な解釈に対応するラベル付けの解明、②付加構造の解釈の解明、③遂行節の詳細な構造の解明についての基盤的研究を行い、その成果を金子(2019)として発表した。今年度は、初年度に行った基盤的研究に基づき、拡充的研究を行う。具体的には、前述の金子(2019)に加えて、金子(2018)等の成果を組み込んで発展させ、音声部門インターフェースへの転送に関わる外在化(externalization)に関わる研究等も勘案しながら、論理形式に関わる研究の進展につなげて行く方針である。この成果は、2019年度日本英語学会におけるシンポジウムにおいて発表する予定である。また、上述の3つの具体的視点については、①についてはラベル付けに関わる上記研究論文集Bauke and Blumel (eds.)(2017)所収論文を引き続き検討するとともに、上記Saito(2016)を進展させたOku(2018)等を検討する。②については、極小主義プログラムにおける付加操作を理論的に考察しているJakielaszek(2017)等を考察する。③については、英語の助動詞システムの統語的階層性を意味的概念にもとづいて導き出す試みであるRamchand(2018)等を検討していく。以上に加えて、引き続き、文献および研究情報の収集、並びに多研究者との交流をすすめる。以上のような計画で研究を拡充し、次年度以降の研究の展開につなげていく方針である。
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