本研究は、極小主義プログラムの最新の枠組みにおいて、概念・意図システムへの入力としての論理形式(Logical Form=LF)表示の妥当な形式とその解釈様式を解明することを目的としている。今年度は、最終年度であり、前年度までの研究に基づき、付加構造を中心とした統語構造構築の研究、および意味解釈の考察に基づくLF表示の研究を行った。付加構造の問題は,前年度に行ったBode (2020) Casting a Minimalist Eye on Adjunctsを土台として、Chomsky(2019) The UCLA LecturesとCitko and Gracanin-Yuksek(2021) Merge: Binarity in (Multidominant) Syntaxを中心として研究を行った。Chomsky (2019)は、統語対象に適用されると考えられてきた併合操作を、統語対象を含むワークスペースに適用される操作(MERGE)と考える新たな提案を行っているが、依然として付加構造のための対併合(pair Merge)を含み、その点でBode(2020)が提案するように集合併合(set Merge)のみを含む分析のほうがより妥当である。解釈機構の問題に関しては、その研究成果を金子(2022)「英語の時の付加詞節における事象時調和制約としての時制調和現象」として発表した。これは金子(2021)の分析を拡張し、時の付加節とその被修飾節(ホスト節)が定形補部節、および不定詞補部節に埋め込まれた事例をも扱えるように一般化した「一般化事象時調和制約」を提案し、その妥当性を示している。この結果、LF表示は階層性を持つ伝統的な概念としてのLF構造と考えるべきであり、時制解釈を含む意味解釈規則は、併合操作とは異なりフェーズ(phase)境界を超えて適用可能であることが示されている。
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