本研究の目的は、日・英語のオクシモロンの解釈の仕組みについて、関連性理論で提案されている「アドホック概念構築」という明意の復元にかかわる語彙解釈の推論プロセスを中心に分析を試みることにある。2021年度は、2020年度に行った分析に引き続き、(1)オクシモロンが使われた諺など、定着したオクシモロンの解釈プロセスついて、関連性理論の観点からどのように説明ができるだろうか、(2)オクシモロンの修辞的効果は関連性理論の観点からどのように説明できるだろうか、という2点について検討した。 (1)については、諺などに見られるようなすでに表現として定着しているオクシモロンと、文学作品などで用いられた創造的なオクシモロンとの対比を通して、両者の解釈プロセスはアドホック概念の構築を基にした明意の解釈に関わるものであることを明らかにした。ただし定着したオクシモロンの解釈については、使用が重ねられることによって推論プロセスから復号化のプロセスへと移行している可能性もある。つまり両者は創造性の程度において連続体を形成していると考えられるのである。(2)の修辞的効果については、関連性理論で提案されている明意・暗意の強弱という観点からの説明の可能性は示せたが十分な結論にまでは至らなかった。 研究期間全体を通して、交付申請書に記載した4つの目的のうち、オクシモロンの解釈プロセスに関する3つの目的についてはおおむね達成できたと言える。オクシモロンの解釈も、通常の発話解釈と同様に、関連性理論に基づく解釈手順に沿って関連性のある解釈を求め、記号化された意味を、アドホック概念構築や飽和といった推論によって発展させていると考えられるのである。一方、オクシモロンの修辞的効果に関する分析については、上述の通り十分な検討ができたとは言えないため、他の修辞的表現との比較も含め今後の研究課題にしたいと考えている。
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