研究課題/領域番号 |
18K00639
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
山腰 京子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (20349179)
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研究分担者 |
藤井 友比呂 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 准教授 (40513651)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 理由WH副詞 / WH句と否定辞の共起 / 子供と親の自然発話 / 理由WH副詞の発話内の位置 / 左端部 / 英語 / 日本語 / フランス語 |
研究実績の概要 |
本研究は、理由WH副詞の特殊性の子供による獲得に注目し、言語獲得過程のデータに基づき生得的な言語知識を定量的に検証することを試みている。 検証が期待できる第1の現象に、WH句と否定辞との相互作用がある。理由WH副詞は否定辞と共起するが、他のWH副詞は共起しにくく、獲得が早ければ理由WH副詞と否定辞との共起は観察され、他のWHとの共起はあまり観察されない筈である。英語が母語の子供2人と日本語が母語の子供2人、またその母親らの自然発話(CHILDES)の分析をした結果、Adamの発話ではwhyと否定辞の共起が64回見られたが、他のWHとの共起はほぼなかった。ナナミとアリカの発話でも、理由WH副詞(ナゼ・ナンデ・ドウシテ)と否定辞の共起は11、17回見られたが、他のWHと否定辞の共起はほぼなかった。これは理由WH副詞の特殊性の早い獲得を示唆しており、分析結果を2018年4月にGLOW41 conferenceで発表した。 検証が期待できる第2の現象に、理由WH副詞の発話の中での位置がある。日本語は比較的語順が自由であり、発話の左端部に理由WH副詞が多く出現すれば、主格を持つ主語より理由WH副詞が高い位置にあることの獲得が示唆されるため、2018年度中期に、日本語が母語の子供3人の発話内の理由WH副詞の位置を調査した。その結果、理由WH副詞(ナンデ・ドウシテ)は発話内の節の頭に76-100%現れたが、他のWH(ドコ)の節の頭での出現率は42-49%であり、理由WH副詞の位置に関する早い獲得が示唆される。この結果をThe 14th Workshop on Altaic Formal Linguistics (2018年10月、於MIT)で発表後、12月にWAFL学会誌に論文原稿を提出し、2019年半ばに出版予定である。また12月以降、仏語の発話内の理由WH副詞の位置を調査している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、まず理由WH副詞と否定辞の共起に関して、英語を母語とする子供と日本語を母語とする子供の自然発話調査を行い、理由WH副詞の特殊性の早い獲得を示唆する分析結果を得て、GLOW41 conferenceで発表を行った。その後、日本語が母語の子供の自然発話内での理由WH副詞の位置に関する調査を行い、理由WH副詞の特殊性の早い獲得を示唆する分析結果を得て、The 14th Workshop on Altaic Formal Linguistics (WAFL, 2018年10月)において発表を行い、また12月下旬にWAFL学会の学会誌に論文原稿を提出し、論文は2019年半ばに出版される予定である。また12月以降は、フランス語の子供と親の自然発話内の理由WH副詞の位置に関する調査を行っており、理由WH副詞のみが左端部に出現しているという結果を得ており、その結果を2019年度の学会において発表予定である。このように英語と日本語の否定辞との共起、また日本語とフランス語の発話内の理由WH副詞の位置に関する調査から、理由WH副詞の特殊性に関して言語獲得過程における早い獲得が示唆される調査結果を示すことができており、研究の進捗状況は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に行った、日本語が母語の子供の自然発話内における理由WH副詞の位置に関する研究では、理由WH副詞の節の頭における出現率を調査したが、今後、発話内の理由WH副詞と他のWHの前後に位置する要素についても調査を行い、理由WH副詞の位置に関するさらに詳しい分析を行う必要がある。 また現在フランス語が母語の子供の自然発話内における理由WH副詞の位置に関する調査を継続しているが、主語と動詞の倒置の有無や子供の主語脱落についても検討が必要である。 さらに2019年度は、日本語の理由WH副詞と「~しか」という作用域を持つ要素の共起に関して質疑応答法を用いた実験を子供に行う予定である。理由WH副詞は主節の高い位置に生起するため、従属文を伴う場合は従属節の動詞を修飾できない。理由WH副詞が主節の動詞のみを修飾すると子供が解釈するならば、理由WH副詞が主節の高い位置に生起すると子供が獲得していることを示すことができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年4月にハンガリーで開催されたGLOW41 conferenceにおいて、大学院生の池田佳菜子が学会発表を行ったため、その旅費を支出した。さらに2018年10月にボストン・マサチューセッツ工科大で開催されたThe 14th Workshop on Altaic Formal Linguisticsにおいて、研究代表者の山腰京子、研究分担者の藤井友比呂、大学院生の池田佳菜子が発表を行うために渡航したが、その旅費3人分が不足すると考えられたため、1,200,000円の前倒し支払い請求をお願いさせていただいた。結果的には大学院生の池田佳菜子への大学からの国際学会旅費補助金申請が採択され、当初の予定よりも前倒し支払いをお願いした全額は渡航費用に使用しなかったため、次年度使用額が生じた。2019年度も海外での国際学会発表を予定しており、その旅費としての使用を計画している。
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