研究実績の概要 |
研究計画最終年度の2020度中に刊行が決定され,脱稿まで終了したのは図書1点であった。この図書と,公式刊行日時は2019年度中だが,実際には2020年度中に出版された学術論文1点の,合計2点についての研究実績内容を記す。研究計画期間全体の実績内容については,別提出「研究成果報告書」に記すことにする。 まず,英語受益者受動構文の発達を他のゲルマン言語と比較するため,ノルウェー語,スウェーデン語,オランダ語,アイスランド語の該当構文についての文献を確認し,分析を行った。オランダ語では明示的与格屈折がすでにないにも関わらず,受益者受動はいまだに発達していない。つまり,明示的与格マーキングの消失は,ただちに受益者受動構文の導入を意味するものではないのである。一方,明示的与格マーキングが残るアイスランド語では,典型的な主語位置に現れた受益者項は,与格標示を受けながらも,実質的には主語と同じように振る舞う。したがって,受益者受動の発達には,トピック性の問題も絡んでいることがわかる。このように,さまざまな要因が相互作用しながら,受益者受動構文と言う文法的構文を形成していく様子は,言語を「複雑系 (complex system)」と見なす根拠となる。 次に,英語迂言的進行形の意味機能の通時的発達を,対応する単純時制形と比較しながら行った。古英語から中英語期における接頭辞 (ge-, be-, for-, to-など) の衰退,単純時制形の機能範囲の縮小,後期近代英語における規範文法の隆盛が,迂言的進行形の発達を促した。迂言的進行形の意味機能を考える際には,相・時制体系全体に目配りしながらの分析が必要であることを示した。なお,接頭辞の英語における衰退は,受動態構文や完了相構文の発達にも寄与しており,小さな変化が思いもよらない大きな変化を引き起こすという,一種の「バタフライ効果」になっている。
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