研究実績の概要 |
本研究では、Chomsky (2013, 2015) によって提唱されたラベル付け理論において、長距離でのagreementは維持されるべきか、を重要なテーマとして設定している。英語の倒置構文や日本語の与格主語構文等、動詞句内に主語名詞句や主格名詞句が残り、標準的な主語位置に非名詞句や非主格名詞句が現れる構文に焦点を当てながら、agreementを中心にラベル付け理論の精緻化を行う。具体的には、(i)標準的な主語位置に現れる非名詞句・非主格句が機能主要部Tとどのようなagreementを行っているのか、(ii)動詞句内に残っている主語名詞句・主格名詞句はどのようにして距離的に離れている機能主要部Tとagreementを行っているのか、の2点を明確にするのが目的である。
2020年度は、2019年度に行った2件の学会発表の内容を精緻化し、論文化することで、3年間の研究の成果をまとめる作業に集中した。論文では、"On the bed lay two cats"といった英語の場所句倒置構文に的を絞り、上記2点の目標について明確化する議論を行った。(i)については、場所句はTと話題素性のagreementを行っているため、標準的な主語位置現れる非名詞句や非主格名詞句もTと何かしらのagreementを行っている、(ii)については、距離的に離れている2要素間でもC統御に基づくagreementが行われるべきであるため、Chomsky (2000, 2001)で強く提唱されていた長距離のC統御関係がラベル付け理論でも維持されるべきだ、という結論を導いた。そして、これらの両方、もしくは、その中の1つが虚辞構文や与格主語構文でも働くことも示した。なお、この論文は、査読の関係で、2021年度に発行となる予定である。
本研究の成果は、Chomsky (2013, 2015) のラベル付け理論を発展させるのに寄与するだけでなく、従来の研究では盛んに議論がなされていたものの以前ほど着目されなくなった現象に新しい枠組みの観点から再び光を当てるという点で意義がある。
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