研究課題/領域番号 |
18K00657
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
寺西 雅之 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (90321497)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 文体 / コミュニケーション / ナラティブ / 文学・非文学テクスト / 翻訳 / 教養と実用 / 英語教育 |
研究実績の概要 |
本年度は、『英語のスタイル』(豊田昌倫編、2017)、Stylistics (M. Toyota 編、2018)、The Palgrave Handbook of Literary Translation(J. Boase-Beier 他編著、2018)、The Principles and Practice of Narrative Medicine(R. Charon 他編著、2017)等の文体論、物語論、ナラティブ研究、翻訳に関する重要文献を精読・再読し、当該分野の知識及び援用・実践例に関してさらに研究を深めた。これと並行し、これまでに収集した分析テクストの文体分析を行い、本研究の成果に基づいた発表を行った。文体論の分析フレームワークを日本で働くAssistant Language Teacher(ALT)の語りの分析に援用し、教師としての成長を文体面から考察した 「A case study of ALT identity construction through narrative inquiry:sociocultural and stylistic perspectives」及び病の語りの分析から患者の内面の変化を論じた「Stylistics as a bridge between literature and medicine: Embedded focalizers in the nonfictional narrative of Brain on Fire」は、いずれもPoetics and Linguistics Association 年次大会にて発表した。また、2021年Palgraveより出版予定のPedagogical Stylistics in the 21st Century等に寄稿するチャプターや論文の準備も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、これまで文学作品が主対象であった文体論を非文学テクストの分析に援用し、外国語及びコミュニケーションに関する深い理解とその教育を目指し、「コミュニケーション文体論」の学術的意義と汎用性を立証することを目的としたものである。その点においては、本年度は当該分野の専門的知識を深めその手法をアップデートすることができており、また Poetics and Linguistics Associationといった国際学会や岡山英文学会等の国内の学会で研究成果を発表できたことは極めて重要である。この点において、本研究は順調に進展していると判断している。また、教育的文体論の分野では、海外での出版に向けて、日本人英語学習者の英作文の分析に関して研究を進めているところであり、さらには、ナラティブ・メディスンの分野では、専門雑誌『「N:ナラティヴとケア』に「国際教養と医療人文学」という題目で依頼論文を寄稿予定である。以上のように、本研究は当初の予測以上に意義深いものになる可能性もあり、大きな期待ができる状況である。 その一方で、マイナス点としては、新型コロナウィルス拡大により、予定されていた研究や研究発表(例:日本国際教養学会第9回全国大会)がキャンセルになったことが挙げられる。状況が改善した際には、積極的に成果発表を行いたい。また、仏語等英語以外の外国語データの収集が進んでいない点も反省点である。今後は、できるだけ多くの言語データを収集し、文体論・コミュニケーション学的観点から分析していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度は、(1)オーセンティックなテクストの収集、(2)質・量的文体分析と英語・コミュニケーション教育への応用、(3)社会問題解決のための文体論の活用、という3つの目標・活動を中心に研究を進めていきたい。まず、(1)に関しては、Assistant Language Teacher(ALT)を対象にしたインタビューデータの収集を前年度に引き続き行い、ALTとしての彼らのアイデンティティの変遷を分析し、今後の日本の英語教育に活用していきたいと考えている。加えて、ALTの語りを異文化における成長・冒険の物語としてとらえ直し、その文学性についても検討を加えたい。2)に関しては、日本人英語学習者が書くテクストの分析を行い、文体・技法・コミュニケーション方法の改善に向けた提言を行いたい。日本人の用いる英語を、視点や話法、語彙・統語選択などの観点から分析し、ネイティブスピーカーの用いる文体と比較することにより、イディオマティックかつ創造的な英語・コミュニケーション力の定着のための方策を探求したい。(3)に関しては、介護老人保健施設入所者による語りや医療分野におけるナラティブの収集等も行い、文学文体論の研究手法を非文学テクストの分析・考察に援用していく。さらに、施設・病院・学校等の現場での実証研究を実施し、文体論が社会に貢献する可能性についてデータを用いて立証したいと考えている。最後に、研究成果に関しては、国際応用言語学会、国際文体論学会、日本英文学会、日本国際教養学会等の学会や論文集・専門書で積極的に発表し、また一般社会に向けては、本研究のために独自に開設したホームページを通じて行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果発表のために予定していた日本国際教養学会第9回全国大会が新型コロナウィルス拡大により中止になったため。
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