研究実績の概要 |
本研究は、諸言語における格助詞・前置詞・後置詞の特性(具体的には、意味役割・品詞・音形・統語構造上の位置)の解明を目的としてきた。 研究代表者の個人研究では、「省略が格助詞・前置詞・後置詞の音形具現に影響を及ぼすのか否か」を明らかにすることを主たる解明事項のひとつとしてきた。2021年度は、日英語のWhy-Strippingと呼ばれる省略現象の考察を通じ、当該の省略構文において残余句の一部として前置詞や後置詞が発音されるか否かを決定づけるメカニズムを探った。「前置詞が発音されるか否かは当該の前置詞が移動の際に残留できるか否かと連動する」というYoshida, Nakao and Ortega-Santos (2015)の提案が妥当ではないことを示し、代替案を提案した。研究成果は昨年度の時点でEnglish Linguistics (38)に掲載が決まっており、2021年度は当該論文の加筆・修正作業を行った。 また、研究分担者である森田千草先生とともに、日本語の二重目的語動詞とともに用いられる「二」格要素の意味役割と統語構造位上の位置を探った。「二」格要素の担う意味役割は、二重目的語構文とto与格構文のいずれの形で具現化されるかに依存するという現在主流とされる分析の問題点を指摘した。さらに、Rappaport Hovav and Levin (2008)による動詞の語彙的意味の違いに基づく英語の二重目的語動詞の分類が、日本語の二重目的語動詞にも当てはまることを示し、日本語においても「二」格要素が担う意味役割は、一緒に使用される動詞の語彙的意味に依存する形で決まると論じた。また、所有者や着点の意味役割を担う「二」格要素が構造上どのような位置で具現化されるかについても検討した。この研究成果は、国際学会the 35th Pacific Asia Conference on Language, Information and Computationにおいて口頭発表するとともに、当該学会のProceedingsにおいても公表した。
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