研究実績の概要 |
これまでの枠組みで提案された局所性条件の言語間差異に関する議論を現在的視点から徹底的に見直し、パラメータ理論で説明すべき研究課題を抽出する作業を行った。例えば、Rizzi (1982)は、英語とイタリア語の「wh島の制約効果」有無という言語間変異は境界節点に関するパラメータによって説明できると主張した。さらに、Kayne (1983), Lasnik and Saito (1992), Ishii (1997; 2012c), Saito and Fukui (1998)などでは、英語などの言語では「主語条件効果」が見られるが、日本語・スペイン語・トルコ語などの言語では見られないことが指摘された。さらに、「左枝分かれ条件効果」は、英語などの言語では見られるが、フランス語・ラテン語やポーランド語・クロアチア語などのスラブ系言語では見られない(Uriagereka 1988, Corver 1990)。これらに代表される1960年代以降の局所性条件の言語間差異に関する研究を、それを支えた具体的な言語現象と共にもう一度現在的視点から検討した。そして、「空範疇原理効果」は「狭義の統語論」で統語構造に適用される制約によるものと考え極小モデルでの局所性へのアプローチについて比較・再検討した。これらのアプローチは局所性を統一的に扱おうとする試みであるが、対象とする現象を「空範疇原理効果」に絞って考えた場合、どのようなアプローチを採用すると原理的な説明が可能かを検討する。その上で、Chomsky (2017)で提案されたMERGEの概念(すなわち、MERGEを作業空間(workspace)から作業空間への写像とみなす考え方)に基づき、「空範疇原理効果」はMERGEの性質から導き出すという可能性を追求した。
|