現在の極小モデルでは、言語の中心的な計算部門はすべての言語で同一でありMERGEという要素を組み合わせる操作のみから構成されていて、言語間差異を説 明するパラメータは計算部門から音声表示までの過程である外在化過程に限定されるという「外在化過程パラメータ」の考え方が仮定されている。しかし、これ まで提案された具体的な外在化過程パラメータは、Berwick and Chomsky (2011)のwh移動と語順に関する示唆、Richards (2010; 2016)のwh移動・拡大投射原 理・主要部移動に関する分析など少数に限られている上、移動/内的併合などの長距離依存関係に対する「局所性条件」の言語間差異に関する提案は存在しな い。最終年度は、それまでに明らかにしてきたMERGEの概念(ワークスペースからワークスペースへの写像)に基づく空範疇原理効果の説明をより精密に検討して、言語の普遍的性質であると考えられる空範疇原理効果の説明理論を提案した。さらに、前年度までに明らかにしたた下接条件効果を韻律構造における制約だとする考え方をさらに推し進め、より精密な説明を提案した。そして、言語間差異についての韻律構造を用いた分析に基づき、外在化パラーメータの考えに基づく局所性条件の言語間差異を説明する外在化パラメータを提案した。本研究では、局所性条件に焦点をあて、極小モデルのもとで新たな局所性理論を提案するとともに、その言語間差異を外在化パラメータを用いて説明することにより、人間の認知システムの解明を目指す生成文法理論の進展に貢献できたものと考える。
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