研究課題/領域番号 |
18K00680
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
伊集院 郁子 東京外国語大学, 大学院国際日本学研究院, 教授 (20436661)
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研究分担者 |
小森 和子 明治大学, 国際日本学部, 専任教授 (60463890)
李 在鎬 早稲田大学, 国際学術院(日本語教育研究科), 教授 (20450695)
野口 裕之 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 名誉教授 (60114815)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アカデミック・ライティング / 大学教員 / 評価コメント / 評価の観点 / ルーブリック / 留学生のための作文教材 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本語意見文の評価を左右する要因を多角的に分析したうえで、意見文の評価基準と自己評価用ルーブリックを作成し、自律学習を助けるツールの一つとして提供することを目的としている。本年度は、これまでに行った日本国内の大学教員による作文評価のデータの分析結果に基づき、以下を行った。 ①作文評価の共起ネットワーク分析(KH Coderによる分析)及びコレスポンデンス分析の結果を中心に、作文評価コメントの量的・質的分析結果について論文としてまとめて投稿した。②大学生から収集した作文データや大学教員による作文の評価データに基づき、留学生のためのアカデミックライティング教材の作成に着手した。③学習者の作文を評価するのに有用な「ルーブリック」(評価項目とその到達レベルをマトリクスで示したもの)と学習者用「チェックリスト」の試案を作成した。試案の作成には、評価の観点と作文のレベル等の対応関係を分析した結果や、各評価項目の重みと項目間の関連の強弱を重回帰分析した結果も参照して反映させた。④評価対象意見文の質的分析を目的に、論理展開や結束性、根拠の質に焦点をおき、評価コメントと照らし合わせて意見文の質的分析を実施し、日本語教育学会で発表した。⑤中国大連市にて「作文評価セミナー」を開催し、第1部で「作文評価を体験する」ワークショップ、第2部で「日本の大学教員による意見文の評価」に関する講演を行い、研究成果の共有及び中国で日本語教育に携わる教員等との意見交換の場とした。 上記の②に関しては当初の計画にはなかった項目であるが、科研の研究会をきっかけに出版社から教材作成の機会をいただくことになり、研究成果を直接的に教育に還元する有効な手段であると考え、当初の計画に加えて着手することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の実施計画にしたがい、評価コメントの量的、質的分析を行い、学会での口頭発表と論文執筆を行うと同時に、これまでの研究成果を活かして作文評価ルーブリック(教師用)とチェックリスト(学習者用)のたたき台を作成した。また、昨年に引き続き、海外の日本語教育機関(大連外国語大学)の協力を得てワークショップやセミナーを行い、非母語話者教員や海外で教える母語話者教員、大学院生と作文教育に関する意見交換をする貴重な機会を得ることができた。 作文評価ルーブリックについては、教員評価用のルーブリックの試案作成にとどまり、学習者の自己評価用ルーブリックへの応用のし方、その形式や文言の検討を開始する段階にまで至らなかった。しかし一方で、当初の計画を超えて、留学生のための作文教材の開発に着手することができた。本科研は日本語意見文の評価を左右する要因を分析したうえで、ルーブリックを含む作文の自律学習を助けるツールを開発することを目指しているため、作文教材の開発は研究の目的にも合致したものである。この時期に出版社から執筆の機会をいただいたことにより、当初の研究計画からは一部変更する必要が生じたものの、当初の計画を上回る研究成果物の作成に着手できた点はプラスに評価できると考える。よって、全体としておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は試案のルーブリック(教員用)及びチェックリスト(学生用)に関し、妥当性及びその効果を検証し、修正を加えたうえで具体的な利用方法を検討する。 手順としては、①試案の評価ルーブリックを実際に教師が用いて評価した際にどの程度評価が一致するのか、②評価ルーブリックを学生が自己評価に利用する際にどのような問題点が生じるか、③教員の評価と学生の自己評価はどの程度一致するのかを検討する。さらに、④学生が作文授業で意見文を執筆する際に、チェックシートを用いるとどのような効果が期待できるか分析し、その活用の仕方を検討する。これらの検証過程を通じ、ルーブリックとチェックリストを学習者の自己評価に利用する方法、形式、文言の検討を重ね、完成させる。これらの分析を実現するために、現在複数の大学で作文授業を実践している高野愛子氏(大東文化大学)を研究分担者に加え、共同で研究を推進することとする。 また、可能であれば今年度も海外の日本語教育機関の協力を得てワークショップを開催し、作文教育やその評価、自律学習に関する問題点等について意見交換する場を設けたいが、研究成果の発表方法や意見交換の在り方については、新型コロナウイルス感染拡大の状況に応じて柔軟に検討していく。 最終的には、研究成果を活用して留学生のための作文教材を作成し、さらにルーブリックやチェックリストについては作文自律学習に役立つツールとしてウェブ上で公開することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
ルーブリック評価に関し、海外のノンネイティブ教員と意見交換をするために、旅費を確保しておく必要が生じた。
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