研究課題/領域番号 |
18K00681
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
森山 新 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (10343170)
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研究分担者 |
山本 冴里 山口大学, 国際総合科学部, 准教授 (00634750)
李 暁燕 九州大学, 共創学部, 准教授 (70726322)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シティズンシップ教育 / 民主的シティズンシップ / 通高等学校本科専業類教学質量国家標準 / 北東アジア / 民主的な文化のための能力(RFCDC) |
研究実績の概要 |
2年目にあたる本年は、第一に1年目の理論的、実践的成果を口頭発表、論文発表を通じて公開した。その上で東アジアにおける「シティズンシップ教育としての外国語教育」を模索するにあたり、以下の2点に重点をおいて研究を進めた。 第一に、ヨーロッパにおいて、シティズンシップの概念とはどのようなものか、外国語教育の中で民主的シティズンシップの能力を育むとは具体的にどのような能力を養うことを意味するのか、について、山本(分担者)が中心に文献をレビューしながら明らかにした。 第二に、日本、中国、韓国、モンゴルなどの東アジア各国において、シティズンシップ教育がどのように行われているのか、またシティズンシップとしての外国語教育は行われているか、行われているとすればどのような教育として展開されているのかについて明らかにすることをめざした。中国においては、李(分担者)が中心になって2018年に中国で発表された『普通高等学校本科専業類教学質量国家標準』の分析とインタビューを通じ分析し、ヨーロッパのシティズンシップ教育との異同を明らかにした。日本においては森山(代表者)が中心になり、文献調査を通じて日本におけるシティズンシップ教育(公民教育)の現状と課題、さらにシティズンシップ教育としての外国語教育の実践事例を調べるとともに、実際にシティズンシップとしての外国語教育実践を展開し、その成果や課題を明らかにした。その他、韓国、モンゴルにおけるシティズンシップ教育、シティズンシップ教育としての外国語教育の実態についての研究を森山が開始した。 2年目の研究成果の一部は既に論文、口頭発表、講演等で発表しているが、一部は3年目に発表を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画と実際の進捗との間には若干異なる点はあるものの、目標達成に寄与しうる様々な成果が上がっている。ヨーロッパにおけるシティズンシップの概念とその発展についての分析は既に論文として採択、公開され、またヨーロッパにおけるシティズンシップ教育において指針となる「民主的な文化のための能力(RFCDC)」の分析も進められている。 アジアにおいても中国、日本を中心にシティズンシップ教育や外国語教育におけるシティズンシップ教育の現状、及びヨーロッパのそれとの異同の分析が進められ、成果も上がりつつある。さらに日本においては、1年目に続き、国際学生フォーラム、テレビ会議授業、複言語・複文化教育プログラムが行われ、その成果を分析しており、その成果は講演、研究論文、口頭発表などで公開されている。 しかしながら、シティズンシップ教育は想像以上に奥が深く、かつ研究代表者・分担者の専門領域からやや外れることもあり、かなりの成果が明らかにはなったものの、その理論的、実践的全体像を掴むことは、非常に困難である。また、ヨーロッパの成果を東アジアに応用するということは、想像以上に容易でなく、文化や社会体制などを超えた共通の枠組みを前提とすべきなのか、それともそれぞれの差異を尊重していくべきなのか、さらに尊重するとすればどの程度尊重するのかなど、未だ解決できずにいる部分も少なくない。 また2020年からCOVID-19の蔓延により、第2回北東アジア言語教育研究会、採択が決まっていた第24回ヨーロッパ日本語教育シンポジウムなどの学会等が続々と中止・延期に追い込まれ、研究のための国内外の出張なども大幅に制限されてしまい、一部の研究やその成果の発表が実現できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まず、一方において欧州における「民主的な文化のための能力(RFCDC)」の分析・考察をさらに進める。その上で東アジアへの応用可能性について理論的に考察する。特にヨーロッパと東アジアの文化的差異、民主主義・人権等のシティズンシップの概念の発展と定着の度合いの違い、さらには社会体制の違いなどを考慮したときに、それらの違いをどの程度考慮した実践を行うかということは非常に重要な問題となりうる。これは同時に、シティズンシップ教育実践を行う上での日中韓の民主的対話を行う上でも非常に重要なことである(日韓、日中、中・香港の対立など)。ヨーロッパでは民主主義を前提に対話を進めることが可能であったが、東アジアの場合、異なる民主主義・人権等に対する考え方が存在しているからである。 こうした点を十分に考察した上で、実際に外国語教育としての国際的なシティズンシップ教育実践をどのように行うかというモデルや評価尺度を考え、そのようなモデルや尺度をもとに、これまで続けてきた教育実践(国際学生フォーラム、テレビ会議授業、複言語・複文化教育プログラムなど)の改善を図り、実践を行った上で、その成果を評価し、それに基づき、提示したモデルや評価法にさらなる改善を加えていければと思っている。また、その成果を韓国やモンゴルなどの日本語教育にも応用し、対立多き東アジアがともに生きるための外国語教育のあり方を日本語教育を例に提示し、東アジア共生に第二言語(外国語)としての言語教育の面から寄与していきたいと思っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度最後にCOVID-19が生じた影響や、文献調査に想定以上の時間を費やしてしまったことから、海外での調査、発表などの機会を得ることが出来ず、次年度使用額が発生した。 次年度にはこれら未達成な部分を少しでも挽回し、実行に移していきたいと思っているが、COVIDー19の世界的拡大が続いており、最悪、1年間の研究期間の延長も検討し始めているところである。
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