2023年度は、2021年度に完成したツリーバンクSUGINOKIを用いて、昨年に引き続きL2日本語の統語的複雑さに関する調査を行った。まず、昨年度(2022年度)行った連体修飾節を含む複雑名詞句の構造的複雑さに関する研究の成果をまとめ、2024年8月に行われる日本語教育学会国際大会の口頭発表に採択された。 次に、2023年度は主に従属節の埋込という点から見たL2日本語の統語的複雑さに関する研究を行った。その結果、下位群より上位群の方が相対的に文の平均的長さが長くなり、文中の平均従属節数も多くなり、統語構造の質的な分析においても、下位群と上位群で、最も多くの従属節を含む文を比較したり、同数の従属節を含む文を比較したりすると、前者より後者の方が、無駄がなく洗練された従属節をより多様な文法機能や統語構造の下で運用できていることがわかった。この研究は、2024年7月に行われる言語科学会の年次国際大会の口頭発表に採択された。 研究期間全体を通じて、前半は既存のL2日本語学習者コーパスを用いて話し言葉と書き言葉に見られる統語的複雑さの違い、特に書き言葉における「(名詞)句の複雑さ」に関するBiberら(2011)の主張を検証した。一方、自ら本務校の大学で集めた書き言葉のデータを収集しオリジナルの学習コーパスを作成し、期間途中から、国立国語研究所のNPCMJ開発メンバー(特に、弘前大学のAlastair Butler氏)の助力を得て当該コーパスに統語解析を加えたL2ツリーバンクを開発し、それを用いた研究を行った。SLA分野での統語的複雑さに関する研究は、従来、文の長さや従属節の埋込に関する量的分析が主流であったが、本科研の成果として強調したいのは、L2ツリーバンクを用いることで、構成素構造や文法機能の面から質的な学習者言語の発達過程の分析及び理解が可能になるということである。
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